結成20周年を迎えたザ・シネマティック・オーケストラは12年ぶりとなる待望の新作スタジオ・アルバムを発表しました。20年でわずかに4枚ですが、ライヴ・アルバムやサントラ盤もありますし、もちろんツアーにも出ていて、活発な音楽活動を継続しています。

 本作品「トゥ・ビリーヴ」の発表が2019年3月、彼らはその翌月には来日して日本では初めてのホール・コンサートを行いました。私にとっても待望のライヴでしたから、しっかり見に行ってまいりました。場所は昭和女子大学人見記念講堂です。

 ザ・シネマティック・オーケストラそのものであるジェイソン・スウィンスコー始め、総勢8名がステージに登場しました。注目のボーカルは二人、本作に初お目見えのジャイルス・ピーターソンが推しているタウィアと彼らの作品に欠かせないハイディ・ヴォーゲルでした。

 ドラムがルーク・フラワーズ、ベースがサム・ヴィカリー、LDブラウンがギター、キーボードはデニス・ハム(?)、サックスにトム・チャント、そして彼らを指揮するジェイソン。いずれも本作品にも参加している腕の確かなミュージシャンです。

 セットリストはベストヒット的でもあり、本作から4曲演奏しており、しっかり新作のお披露目ライヴでもありました。初めて見たライヴでは、ルークのドラムとサムのベースがとにかく大活躍していて、スタジオ盤とは様相を異にする力強い演奏が繰り広げられました。

 アルバム最後の曲「プロミス」はハイディ・ヴォーゲルの静かなボーカルの前半から、次第に楽器陣が盛り上がっていくドラマチックな構成の曲です。この曲がライヴでは盛り上がりが10倍になります。渦巻くサウンドにさらわれていってしまいます。いいライヴでした。

 その余韻冷めやらぬままに、本作を聴き直しているのですが、やはりスタジオ盤ではストリングスが光ります。担当するのはミゲル・アートウッド・ファーガソン。共演歴のあるアーティストはフライング・ロータスやカマシ・ワシントン、ドクター・ドレーにレイ・チャールズ...。

 ミゲルは全曲のストリングスを担当し、靄が少し晴れたような美しいサウンドを提供しています。何でも彼は本作のためのストリングスを96テイクも録ったのだそうで、エネルギーと想像力を注ぎ込んでくれたことにジェイソンは感謝を惜しみません。

 ボーカル陣は、LAを拠点に活動するシンガーソングライターでジェイムズ・ブレイクの新作にも参加したモーゼス・サムニー、お馴染みのラッパー、ルーツ・マヌーヴァ、常連グレイ・レヴァレンドにライヴにも参加した二人です。落ち着いた深みのあるボーカルです。

 ジェイソンは、「フライング・ロータスがジャズを変えた」以降、「ジャズでさらに多くのことができるようになってきた」と語ります。さらに「ジャズというジャンルでは、制作過程が重要なんだ。それがジャズの美しさなんだよ。その美しさは『トゥ・ビリーヴ』に結びつく」。

 本作の「制作プロセスは、スタジオとライヴの相互作用」なんだそうです。ライヴのテイクとスタジオのテイクが行ったり来たりしながら完成する。作り込まれているようでいて、ライヴでの自由度は高いのはそういうわけです。そんなライヴに参加できて幸せです。

To Believe / The Cinematic Orchestra (2019 Ninja Tune)