「ピンク・パンサー2」は「ピンクの豹」の続編にして、前作では準主役だったクルーゾー警部を主役としたコメディー映画の傑作です。私はこの作品を何度見たことか。もちろんリアルタイムに劇場で見ましたし、リバイバルもテレビもビデオもDVDも。

 典型的には最初の方に出てくる博物館での現場検証シーン。これでもかこれでもかと小さなボケをかまし続けるところに本作品のすべてが表れていると思います。「3」以降になるとついて行くのがしんどくなりますけれども、この作品はすべてがちょうど良いです。

 続編といいますが、「ピンクの豹」の翌年にはすでにスピンオフ作品として「暗闇にドッキリ」が制作されています。しかし、本作はそれから10年以上たってからの制作で、同作品は一度なかったことにして作られています。仕切り直しの一作です。

 監督はもちろんブレイク・エドワーズ、主演は今回はしっかりピーター・セラーズ、音楽はヘンリー・マンシーニ。黄金のトリオによる新たな作品であります。サウンドトラックは今作でもしっかりと丁寧な仕事がしてあり、音楽アルバムとして独り立ちしています。

 まずはかの有名な「ピンク・パンサーのテーマ」です。前作では2分36秒でしたが、本作では3分強となり、一層ジャズよりのアレンジを施した再録音作品です。強烈なテーマはそのままにバックのサウンドにより厚みを持たせています。

 このテーマから始まりますし、インスト・バージョンとボーカル・バージョンを収録する第二のテーマとして前作の「今宵を楽しく」に相当する「偉大なる贈り物」があるなど、前作と構造が似通っており、自然に両者を比較してしまいます。

 両者の間には10年以上の歳月が流れており、その間、ポピュラー音楽の世界には大きな変化が起こりました。端的にはロックが主流となった上に、さまざまな実験が行われるようになり、それがまた人気を博したため、格段に音楽の幅が広がりました。

 「ピンク・パンサー2」は、前作と同様にバラードを中心としたラテン風味のあふれるラウンジ・ミュージックであると言い切っても間違いではありません。しかし、ギターが活躍したり、ロック的なリズムが導入されたりして、前作のまったりした感じは大幅に縮小しています。

 たとえば、「ヒアズ・ルッキング・アット・ユー、キッド」という曲は、ベース・ギターがうねり、エレキ・ギターがむせび泣くロックな名曲で、ヒップホップのグランド・プーバがクラシックともいえる「アイ・ライク・ユー」で、もろに使ったことが話題になりました。

 ちなみにこの曲名は「カサブランカ」の名セリフです。クルーゾー警部もかっこよく決めていました。もちろん女優さんは素で笑っていましたけれども。しかし、この曲、映画の場面と関係があったのかなかったのか、サントラだけでは全く思い出せないのがマンシーニ流です。

 他にも「ディスコ」は早すぎたドラムン・ベースですし、全体に10年の歳月を十二分に感じさせてくれます。マンシーニと聞いて思い浮かべるのは前作の方なのですけれども、格段に幅が広がったマンシーニももちろん素晴らしいです。これも極上のサントラです。

The Return Of The Pink Panther / Henry Mancini (1975 RCA)