サイモンとガーファンクルには同時代にライヴ盤が発表されていないと申し上げました。しかし、実はライヴ・アルバムが企画されていました。大ベストセラーの「明日に架ける橋」に続く6作目のアルバムとしてライヴが発表されるはずだったんです。

 実際、1969年10月から11月、「明日に架ける橋」制作完了後、発表前に行われたツアーのうちのいくつかのステージは録音されていました。しかし、S&Gはすでに二人での活動を休止することを決めており、結局発表されることはありませんでした。

 ただし、彼らの「グレイテスト・ヒッツ」には4曲ライヴが収録されており、それはこの一連の作業の中で録音されたものです。この時にライヴ・アルバムを発表する手はあったと思うのですが、それよりもまずはベスト盤ということだったんでしょう。

 1967年のライヴとは異なり、こちらのライヴは6カ所のステージからベストな曲を選曲しています。用意周到に準備されていたことが分かります。この作品がついに発表されたのは2008年3月、実に40年近い間陽の目を見なかったのは何とも残念でした。

 ライヴは二人だけのアコースティック・セットとバンドを従えたエレクトリック・セットからなります。バンドは「明日に架ける橋」制作チームから、ハル・ブレイン、ジョー・オズボーン、フレッド・カーターJr、ラリー・ネクテルという「ベスト・ミュージシャン」から成ります。

 このバンドの演奏がいいです。特にブレインのドラムとオズボーンのベースからなるリズム・セクションの控えめな、それでいてハキハキしたリズムがいい。ネクテルのピアノもいい味を出しています。1969年のアメリカンの底力を感じます。

 選曲は「サウンド・オブ・サイレンス」から「ブックエンド」までの3作から万遍なく選ばれていることに加え、まだ発表されていない「明日に架ける橋」から5曲選ばれていることが特徴的です。観客にとっては初めて聴く新曲になるわけです。

 中でも注目されるのは「明日に架ける橋」でしょう。ラリー・ネクテルのピアノだけをバックにアートが歌い上げる新曲に観客が酔わされているのがよく分かります。終わった後の一際大きな拍手に、この曲の成功は疑いないものとスタッフの目に映ったことでしょう。

 カバー曲は一曲だけ「ザット・シルバー・ヘアード・ダディ・オブ・マイン」が選ばれています。ジーン・オートリ―という人の曲ですが、S&G憧れのエヴァリー・ブラザーズが歌ってもヒットしています。まるで二人のオリジナルのようなはまりぶりです。

 解散に向かう途上とは言え、二人の絶頂期を捉えたライヴはさすがに素晴らしいです。アメリカの激しい時代を共に生きている人々と共有するステージは時代の空気をそのまま閉じ込めています。先鋭的なデュオであったことを再確認させるアルバムです。

 ところで、日本盤の発売は2009年6月、翌月にはサイモンとガーファンクルのリユニオン・ツアーで日本を訪れています。その先触れとしては絶妙のタイミングでのリリースです。公演は15万人を動員して大盛況だったそうです。おめでたい話です。

Live 1969 / Simon & Garfunkel (2008 Columbia)