映画「卒業」をどう見るのかは人それぞれでしょう。アメリカン・ニュー・シネマの傑作なのか、青春映画のバイブルなのか、結婚式場から花嫁を奪い去る映画なのか、中年女性に誘惑される映画なのか、キャサリン・ロスが可愛い映画なのか。

 インドでは圧倒的に花嫁強奪映画です。同じようなシーンを取り入れたボリウッド映画がどれだけあることか。役の上でのことであっても結婚が成立したとする判決が出るような国ですから、役者さんにとっても奪ってくれた方がありがたいのでしょう。

 それはさておき、「卒業」のサウンドトラックです。この作品はサイモンとガーファンクルの楽曲を使っています。これは当時としては画期的なことで、映画とポップ・ミュージックの蜜月が始まる嚆矢となったと評価してよいでしょう。

 本作の監督マイク・ニコルスは、アート・ガーファンクルの歌声に惚れ込んで、デュオの音楽を映画に使うことを思いつきました。ポール・サイモンもかなり乗り気になって、新曲を書きましたが、多くは没になった模様です。アートびいきだったんですかね。

 結果的に本作で使用されたS&Gの曲は、既発表曲から「サウンド・オブ・サイレンス」、「スカボロー・フェア/詠唱」、「4月になれば彼女は」、「プレジャー・マシーン」の4曲、そして新曲の「ミセス・ロビンソン」の5曲です。

 このうち「サウンド・オブ・サイレンス」と「スカボロー・フェア/詠唱」、「ミセス・ロビンソン」は2回ずつ本作に収録されていますので、計8曲の収録です。しかし、たとえば「ミセス・ロビンソン」は1分強×2回に過ぎず、これでもアルバムの約半分にしかすぎません。

 残りは何かといえば、本作でポールとともにグラミー賞に輝き、のちにグラミーの常連となるデイヴ・グルーシンのオリジナル・スコアです。こちらはいかにもサントラ然としたインストゥルメンタル曲ばかりで、中にはスカボロー・フェアのメロディーもアレンジされていたりします。

 グルーシンのインストが大人の世界、S&Gの曲が若者の世界を象徴しており、この二つの世界の対比が音楽面でも際立つ構成になっています。そこが本作品の成功の一つの理由でしょう。S&Gの作品は先鋭的だったんです。

 S&Gの楽曲のうち、「4月になれば彼女は」と「プレジャー・マシーン」は既発の音源を使っています。「サウンド・オブ・サイレンス」は最初が既発のロック・バージョン、最後が当初のセッションの音源ながらバージョン違いのアコースティック・バージョンです。これが渋い。

 監督が最も気に入っている「スカボロー・フェア/詠唱」と「ミセス・ロビンソン」は新録です。とはいえ、「ミセス・ロビンソン」は後に発表されるフル・バージョンではなくて、ほんの触りだけといった感じです。しかし、インパクトは大きい。本作はS&G初の全米1位に輝きました。

 この作品をS&G作品と呼ぶのは躊躇してしまいますが、実際にそう呼ばれているのですからそうしておくのがよいでしょう。当時の世相、映画の出来、「サウンド・オブ・サイレンス」のインパクト、そういったものが絡み合ってのS&G作品です。

The Graduate / Simon & Garfunkel (1968 Columbia)