ジャケット写真は、著名なファッション写真家リチャード・アヴェドンによるものです。アヴェドンらしい凍るようなモノクロ・ショットは、レコード会社の気合を物語っているように思います。「卒業」も大ヒットし、サイモンとガーファンクルはトップ・スターになっていました。

 実際、本作品は発表されるや大ヒットを記録しましたし、1968年6月15日のビルボード・チャートでは1位が「ブックエンド」、2位が「卒業」、6位が「パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム」と3枚同時にトップ10入りするという恐ろしいまでの人気ぶりでした。

 本作「ブックエンド」は前作から1年半ぶりのアルバムです。今では珍しくもない間隔ですけれども、この当時は年に2枚出すとか当たり前でしたから、レコード会社にしてみれば長すぎる間隔です。会社サイドからは二人に大いに圧力がかかった模様です。

 とはいえ、そこは二人も考えていて、前作発表直後となる1966年11月には本作収録の「冬の散歩道」、半年後には「動物園にて」、その半年後に「フェイキン・イット」とコンスタントにシングルを発表しています。さらに「卒業」の「ミセス・ロビンソン」もありましたし。

 こう並べてみると、本作品はシングル曲の寄せ集めのようです。ところが、「ブックエンド」はアルバムとしてのまとまりを存分に意識した、ある意味でコンセプト・アルバムとなっています。デュオのアルバム制作に対する態度は一変しています。

 A面は最初と最後に短い「ブックエンドのテーマ」を持って来て、間におかれた5曲を挟み込む形になっています。最初のテーマはアコギの静かな演奏のみ。そのムードを打ち破るかのように「わが子の命を救いたまえ」が置かれて、その後に問題作「アメリカ」です。

 この頃のアメリカはと言えば、ケネディ大統領の暗殺の傷あとが言えぬままにベトナム戦争に突入しており、とりわけ若者の間にはアメリカなるものに対する信頼が揺らいでいた時期です。ポール・サイモンはそうした時代の空気を見事に言葉に綴っています。

 作品はさらに老人たちの会話を録音した「老人の会話」から「旧友」へと続き、最後にテーマのボーカル・ヴァージョンで閉じられます。まだ20代の若者たちが老人たちを取り上げて、何とも行き場のない状況を美しく描くという恐ろしいお話です。

 B面は先に挙げたシングル曲を全て含む、いわばロック・サイドと言えます。A面の込み上げてくるフォーク・サイドとの対比が鮮やかです。相変わらず演奏者のクレジットは一切ありませんけれども、ニューヨークの一流どころの端正な演奏が眩しいです。

 これまでと比べると、アート・ガーファンクルがリードをとる場面が極端に減っており、ポール・サイモンの音楽的な指向が露わになってきた作品です。アルバム・コンセプト、さまざまな趣向を凝らした演奏、そこここに自信を深めたポールの顔を見つけることができます。

 とはいえデュオ作品ですから、やはり二人のハーモニーが聴き物ではあります。それも含めてアルバムとしての完成度では群を抜いており、「卒業」ではないですが、アメリカン・ニュー・シネマの音楽版とも言える作品ではないでしょうか。

Bookends / Simon & Garfunkel (1968 Columbia)