パセリ、セージ、ローズマリー、タイムはいずれも香辛料の名前だと知って、何だか偉くなった気になったのは英語を習い始めたばかりの中学生の私です。それ以来、ローズマリーやタイムに出会うとついついこのアルバムを思い出してしまいます。

 サイモンとガーファンクルの果たした大きな役割は、アメリカのポピュラー音楽における曲作りを三文文士の手から詩人の手に渡したことにある。本作品のライナー・ノーツにおいてラルフ・グリーソンはそのように書いています。

 香辛料の名前が使われていることに興奮する日本の中学生ばかりではなく、ポール・サイモンの手掛ける数々の曲の歌詞は、中学生のみならず英語ネイティブの大人たちにも大きな衝撃を与えたということが分かります。これはこれで若者の反逆でしょうか。

 急いで制作された前作が大いに成功したことで、サイモンとガーファンクルの二人には充分なアルバム制作の時間が与えられました。プロデューサーは前作と同じく、トム・ウィルソンの後を受けたボブ・ジョンストンですが、実質的には二人がコントロールすることができました。

 それには熟練したエンジニアであるロイ・ハリーのサポートも大きな要素でした。ハリーのS&Gとの仕事は彼の代表作となっていきます。究極のボーカル・ハーモニーを録音する上で、ハリーの果たした役割は極めて大きなものがありました。

 アルバムは、タイトルがそのまま歌詞になっている「スカボロー・フェア」で始まります。イギリス民謡に、ポールのソロ作に収められていた「ザ・サイド・オブ・ア・ヒル」を重ねた曲で、ギターとハープシコードの響きが美しい彼らの代表作です。

 それに続けて、ブルージーな「パターン」を持ってくるところにこのアルバムにおける彼らの意気込みが現れています。ハル・ブレインやジョー・サウスを始めとする一流セッションマンの演奏もポールの意を十分に汲んだものになっているのでしょう。

 本作収録の「早く家へ帰りたい」は、前作のためのセッションで録音されたものの、アメリカでのアルバム収録は見送られ、シングルとして発表されていました。トップ10ヒットとなっており、英国では前作に収録されているというややこしい曲です。

 この望郷の歌にはポールの詩人としての才が存分に発揮されています。哲学的であって、どちらかと言えば散文的な分かりやすい歌詞が彼の特徴です。この曲など、田舎から出たことがなかった中学生の耳にもジーンと来ましたから。

 「プレジャー・マシーン」のようなハードなロック曲もあれば、アート・ガーファンクルの天使の歌声を活かした「エミリー・エミリー」もあり、ポール・サイモンのボブ・ディランの物まねが楽しい「簡単で散漫な演説」があったりといよいよ本領発揮です。

 「7時のニュース/きよしこの夜」で時事問題に焦点をあてる若者らしい尖った部分は、この当時の二人の革新性を端的に示しています。体制と対峙するという意味ではパンクと同じ。この大ヒットしたアルバムは決して軟な作品ではありません。

Parsley, Sage, Rosemary & Thyme / Simon & Garfunkel (1966 Columbia)