ニコの作品に耳を傾ける時、私はマリアンヌ・フェイスフルとフューの二人の女性を思い出します。マリアンヌはニコに比べれば10歳ほど若いですけれども、その長い金髪と人生に、そしてずっと若いフューはその歌い方に共通点があるように思います。

 ニコとマリアンヌはストーンズのマネージャーだったアンドリュー・オールダムの手引きでレコード・デビューしています。ニコはマリアンヌにあったカワイ子ちゃん時代がレコードには残されていませんが、マリアンヌの変身以降とはサウンドのイメージが少し被ります。

 そしてフューです。メロディーに合わせて抑揚をつけて歌うということから自由なところが重なり合います。どちらかと言えば不器用な歌唱です。しかし、それが聴く者の脳髄をかき混ぜるわけですから不思議なことこの上ありません。

 本作品はニコの4枚目のソロ・アルバムです。前作の後、活動拠点をヨーロッパに移したニコは、ケヴィン・エアーズのコンサートを収録した名盤「悪魔の申し子たち」でロバート・ワイアットやジョン・ケイル、イーノなどと共演を果たします。

 それからしばらくして発表されたのが「ジ・エンド」でした。「悪魔の申し子たち」でも表題曲「ジ・エンド」をイーノと二人で披露していましたが、このアルバムではそのイーノに加え、ロキシー・ミュージックのフィル・マンザネラ、ヴェルヴェッツのジョン・ケイルが参加しています。

 アルバムのハイライトはもちろん「ジ・エンド」です。ドアーズの傑作であり、コッポラの「地獄の黙示録」でその存在感を遺憾なく発揮した名曲を、ニコの地を這うような魔女っぽいボーカルが存分に語りつくします。悪名高い歌詞も随分はっきりと歌っています。

 この曲のバッキングを担当するジョン・ケイルの弾けぶりが凄いです。後半の盛り上がりは異様な熱気を帯びており、アルバム中で最も熱い山場となっています。ニコは後に「ジ・エンド」以外は本作を気に入っていると逆説的に語っています。

 実は「ジ・エンド」と最後に収録されたドイツ国歌以外はニコのオリジナルで占められています。訥々と語るようでいながら、妙にはきはきとした発音で一節一節歌われるオリジナル曲の数々はダークなアンビエント・ムードが色濃いです。

 ただし、この頃のイーノはアンビエント前です。「イノセント・アンド・ヴェイン」のアウトロに顕著な暴力的なシンセを操るイーノです。ここでのアンビエント要素の主はニコが奏でるハルモニウムです。据置型アコーディオンによるドローンが全体を支配します。

 そこにイーノのシンセ、マンザネラのギター、ケイルの現代音楽色を帯びたさまざまなサウンドが浮遊するように被さります。そうした衣装をまとって、ニコのボーカルはヨーロッパにある魔女の地下空間を踊るようです。暗闇の天使とはニコのことでありました。

 本作品は確実にニコの頂点の一つとなった傑作です。メロディーやリズムが画然としない中で、ニコのボーカルは最大限にその凄味を発揮しています。普通の伴奏が邪魔になる類のボーカリストであるニコにとってはこの面子は奇跡のような取り合わせです。

The End / Nico (1974 Island)