「サウンド・オブ・サイレンス」の誕生は音楽史上の事件でした。商業的には完全に失敗したデビュー作の中の一曲がロック調に生まれ変わったことで、なんと全米1位を記録する大ヒットとなったという、まさに起死回生の出来事が起こったわけです。

 ラジオで静かな人気を呼んでいたらしいこの曲に、プロデューサーのトム・ウィルソンは同じく彼がプロデュースしたボブ・ディランの「追憶のハイウェイ61」セッションのために集まったミュージシャンによるエレクトリック・セッションを追加しました。

 当時の状況からするとフォーク・ソングよりもフォーク・ロックというウィルソンの見立ては圧倒的に正しかったとはいえ、それにしても全米1位とは大きくブレイクしたものです。今の耳で聴くといかにも古臭いとってつけたような演奏ですけれども、元気はあります。

 このアレンジをポール・サイモンとアート・ガーファンクルは事後的に聞かされたそうです。もともとポールはチャック・ベリーのファンだったそうですし、シングル化されたB面は最初からエレクトリック・バージョンですから、本人たちにも抵抗はなかったのでしょう。

 前作の失敗の後、デュオはほとんど解散状態で、アートは大学に戻り、ポールは英国に活動拠点を移していました。ポールはそこで英国の伝説のギタリスト、デイヴィー・グラハムについて学び、さらにソロ・アルバムを制作するなどしています。

 そこに降って湧いた全米1位です。コロンビア・レコードは二人に急きょアルバムを制作させることとし、出来上がったのが本作「サウンド・オブ・サイレンス」です。全11曲のうち、「サウンド・オブ・サイレンス」も含めて6曲がポールのソロ作からの再録となっています。

 本作ではカバー曲はわずかに一曲、それもギターの師匠デイヴィー・グラハムの「アンジー」のみです。全編、ポール・サイモンの自作曲が並び、サイモンとガーファンクルの本領発揮といえるでしょう。曲をストックできたのは前作がヒットしなかったおかげでもあるでしょう。

 シングル・カットされてヒットしたのは「アイ・アム・ア・ロック」です。中学生だった私はてっきりロックな曲だと思っていましたが、このロックは正真正銘の「岩」でした。要するに引きこもりの歌なわけで、深みのある歌詞に感動したものです。

 他にも「リチャード・コリー」に「とても変わった人」と主人公が自殺してしまう歌が続きます。当時、歌謡曲くらいしか聴いていなかった私には、サイモンとガーファンクルの曲には、こんなこと歌っていいんだと衝撃が走りました。

 鮮烈な歌詞と、美しく構築された二人のハーモニーはとにかく新鮮な感覚として耳に響いたものです。ニューヨークの有名セッション・ミュージシャンを起用したサウンドも派手ではないものの、ハイセンスでおしゃれに聴こえました。

 デビュー作の不振が嘘のように、アルバムは3年近くチャートインするロングセラーとなりました。まだ恐る恐る発表したであろうこのアルバムの成功で、サイモンとガーファンクルは自分たちの音楽に大いに自信を深めたことでしょう。

Sounds Of Silence / Simon & Garfunkel (1966 Columbia)