サイモンとガーファンクルのデビュー・アルバムとなる本作「水曜の朝、午前3時」は発表当初2000枚しか売れませんでした。幼馴染のポール・サイモンとアート・ガーファンクルはすでにトム・アンド・ジェリーとしてヒットを飛ばしていましたからさぞや残念だったことでしょう。

 二人のボーカルとほぼポールのギターだけで作られたアルバムは、遅れてきたフォーク・シンガーというありがたくない言われ方をしてしまいます。この頃にはすでにビートルズがセンセーションを巻き起こしており、音楽シーンが大きく変わる時期にあたっていました。

 面白いことに、この当時は遅れていたのかもしれませんけれども、半世紀を隔てた今の時代にこれを聴くと、当時のロックに感じる年代物感がほとんどしません。むしろ同時代的に新鮮なサウンドです。アコギにボーカルですから当時も今も変わらない。

 それに録音が素晴らしいです。電気を使った楽器の方が録音は簡単かと思いきや、アコギとボーカルの方がやりやすいのでしょうか。当時のロックものよりも現代的に響きます。1964年とはとても思えない鮮烈さ、アナログの勝利です。

 プロデュースはトム・ウィルソンが務めています。またしてもトム・ウィルソンです。ボブ・ディラン、フランク・ザッパ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドなど、ポピュラー音楽シーンの要所要所に顔を出す名プロデューサーです。いい仕事をしています。

 この作品ではポール・サイモンの手になる曲はまだ12曲中5曲に過ぎません。デビューのきっかけとなった「私の兄弟」、「霧のブリーカー街」、「すずめ」、「水曜の朝、午前3時」、そして後に彼らの運命を変えることとなる「サウンド・オブ・サイレンス」アコースティック版です。

 それ以外の曲のうち3曲はトラディショナルと表記されており、エヴァリー・ブラザーズを目指して結成されたフォーク・デュオとしてのサイモンとガーファンクルの面目躍如たるものがあります。いかにもアメリカンなフォーク・ソングです。

 残りはカバー曲で、中ではボブ・ディランの「時代は変わる」が面白いです。ストレートなカバーですからポール・サイモンとディランの違いが際立っています。二人は同じフォークなのかもしれませんが、天と地ほども隔たりがあるように思われます。

 ポールの自作曲には豊かな才能の片鱗がしっかり現れています。当時、キャロル・キングとも共作していたというポールです。作曲家としての自負は人一倍あったことでしょうし、注目を集める哲学的な歌詞もすでに威力を発揮しています。

 この自作曲にはアートの解説が付されています。ポールにあてた手紙の形式を借りた心温まるライナーノーツです。一番行を割いているのはもちろん「サウンド・オブ・サイレンス」で、コミュニケーション不全を扱った曲だとして、その深みを解説しています。

 二人のボーカル・ハーモニーはすでに完成の域に達しており、達者なアコギの演奏とともに彼らの魅力は遺憾なく発揮されています。後に再評価されて英米のチャートでそこそこのヒットを記録したのも素直に頷ける、よくできたデビュー作だと思います。

Wednesday Morning, 3AM / Simon & Garfunkel (1964 Columbia)