いつまでも元バウハウスという肩書が外れないピーター・マーフィーですけれども、ソロ活動は順調に展開し、1988年3月には早くも二枚目のソロ・アルバムが登場しました。目立つチャート・アクションはないとは言え、本作はアメリカでも少し人気が出ました。

 本作では、プロデューサーにサイモン・ロジャースが起用されました。サイモンはこの当時ベガーズ・バンケットからアルバムを発表していたザ・フォールのメンバーでした。フォールには大変珍しい音大卒のアーティストです。彼は後にテレビ・ドラマの音楽で有名になります。

 そしてバックを固めるのは、この当時マーフィーを支えたツアー・バンドの面々で、中心となるメンバーは、ギターのピーター・ボナス、ドラムのタール・ブライアント、ベースのエディー・ブランチ、キーボードのポール・ステイタムの4人です。

 彼らは後にバンド名をザ・ハンドレッド・メンとしてマーフィーと行動を共にすることになります。このザ・ハンドレッド・メンという言葉は、本作品の最初のシングル・カット曲でもある「オール・ナイト・ロング」の歌詞に出てきます。面白い選択です。

 それぞれがそれなりに活動していたバンド・メンバーの中で、特筆すべきはポール・ステイタムです。彼はBムービーというバンドで活動していた人で、本作では3曲をマーフィーと共作しており、後にマーフィーのソング・ライティング・パートナーとなっていきます。

 ソロ・デビュー作が有名ゲストも交えたお祭り的なアルバムだったのに対し、2枚目となる本作はバンドも落ち着き、いよいよマーフィーの本格的なソロが始まったぞという作品になったと言ってよいでしょう。バウハウスのイメージもいよいよ薄らいできました。

 アルバムは「オール・ナイト・ロング」で始まります。ステイタムのシンセが冴えるアメリカンな楽曲で、マーフィーの歌声も幾分明るいです。どこかこの世のものではない感じが漂っていた歌声が、かなりの程度世俗的になってきました。

 シングル・カットは、これまた間奏のキーボードが特徴的なストレートなロックの「ブラインド・サブライム」と、アコースティックも使った美しい曲「インディゴ・ブルー」で、計3曲となります。一歩間違えば大ヒットしたかもしれないポテンシャルを感じます。

 一方で、癖のある曲もあります。タイトルも面白い「ソクラテス・ザ・パイソン」では、ソクラテスやピタゴラス、聖書に陰陽、ヨガにオーム、グルジェフにベネット、キリストと並べた後で、♪図書館は鍵でいっぱいだ、あなたの鍵穴はどこに?♪と、幾分陰鬱に語るように歌います。

 70年代のしっとりとしたアメリカン・ロックを彷彿させるロマンチックな「マイ・ラスト・ツー・ウィークス」で終わるかと思ったら、最後にイギー・ポップの「愚か者」から「ファン・タイム」のカバーで締めくくります。ここはピーター・マーフィーのお家芸です。

 ザ・フォール離脱直後のサイモン・ロジャースのプロダクションだからそう思うのかもしれませんが、薄情なアンサンブルにザ・フォールの影を少しだけ感じます。そこにアメリカンなテイストも加わって、マーフィーを地上におろすことに成功した傑作ではないかと思います。

Love Hysteria / Peter Murphy (1988 Beggars Banquet)