「ODOO」は「オーバーテイク・ドン・オーバーテイク・オーバーテイク」の頭文字を連ねたものです。ナイジェリアのカラクタ・レコーズから1989年に発表された時には、この頃の例にならってA面がインストゥルメンタルの前半部、B面がボーカル入りの後半部で構成されました。

 しかし、米国のレーベルから発売された時には、1990年に同じくカラクタ・レコーズから発表された「コンフュージョン・ブレイク・ボーンズ」とカップリングされました。このたびはどちらもロンドンのスタジオで録音されたようですから、素直なカップリングです。

 釈放されてからのフェラは、フェラの城とも言えるシュラインにて精力的に音楽活動を続けており、1989年からは3年続けて海外でもライブを行っています。ニューヨークのアポロ・シアターの舞台にも立って、JBのためのチャリティーに参加してもいます。

 ところが、レコーディングに関しては1970年代から1980年代前半に膨大なカタログを生み出したことが嘘のような寡作ぶりです。曲作りは続けており、シュラインのお客には随分と新曲も披露していたそうですから勿体ない限りです。

 その意味ではこのアルバムは大変貴重な作品と言えます。「ODOO」では相変わらず舌鋒鋭く、度重なるクーデターは、♪兵士が去って兵士が来た♪にすぎないと批判します。ナイジェリアではブハリ政権、ババンギダ政権とクーデターが続いていた時期でした。

 この曲の面白いところは、フェラの過去のヒット曲が引用されていることです。「カラクタ・ショウ」、「ミスター・フォロー・フォロー」、「ゾンビー・オー・ゾンビー」、「シャッファリング・アンド・シュマイリング」、「アンノウン・ソルジャー」。これは楽しいです。

 サウンドは80年代後半の柔らかなアフロ・ビートです。いや、フェラ本人はアフロ・ビートという名前を嫌っており、アフロ・ミュージックと呼ばれたがったということです。過去の音楽と区別するという意味ではアフロ・ミュージックを使った方が良いかもしれません。

 もう一曲「コンフュージョン・ブレイク・ボーン」も同じフォーマットでオリジナルは発表されています。1975年と77年、フェラの自宅を警察と軍隊が襲撃した事件を正面から取り上げた楽曲で、落ち着いたビートと分厚いホーンが耳を惹きつけます。

 この曲では最後の方で出てくるさらに分厚いコーラスも魅力的です。それまでのフェラのサウンドにはなかった類の厚みがあります。女声によるコーラスだけではなくて、バンド全員が歌っているかのような新鮮なコーラスです。

 フェラは専らアルト・サックスを吹いている模様です。バリトン・サックスのアニマシャウンを中心とするエジプト80のサウンドはフェラのサックスを盛り上げる一方で、こうした実験にも取り組んでおり、これまたアフリカ70とは異なる魅力を発揮しています。

 よりジャズ的なサウンドがどんどんスピリチュアルになっていくフェラを支えています。こんな演奏が毎夜のように繰り広げられていた様子なのに、音源がほとんど残されていないのは本当に残念です。この時期のフェラの魅力もまた格別です。 
Overtake Don Overtake Overtake / Fela Anikulapo Kuti & Egypt 80 (1989 Kalakuta)