英国のニュー・ウェイブ時代に登場したゴシックないしはゴスと呼ばれる一群のバンドの代表格と言えば、バウハウスです。私などは、ゴスと言われれば彼らのデビューとなった「ベラ・ルゴシズ・デッド」のジャケットが真っ先に浮かびます。ベラ・ルゴシの吸血鬼です。

 バウハウスは1983年には一旦解散してしまいしたが、メンバー4人はトーンズ・オン・テイルやラヴ&ロケッツなどさまざまな活動に勤しみます。フロントマンであったピーター・マーフィーはジャパンのミック・カーンとダリズ・カーなるユニットを経て、ソロ活動を行います。

 最初のシングルはバウハウスのコンピレーション・アルバム発表と同じ日に同じベガーズ・バンケットから発表されました。それが「ファイナル・ソリューション」です。米国ポスト・パンクの大物であるペル・ウブの大名曲のカバーです。

 私はマーフィーの「ファイナル・ソリューション」が大好きです。デヴィッド・トーマスの腐臭漂うボーカルも良いですが、マーフィーによる勇猛果敢なカッコいいバージョンには抗いがたいです。♪気休めはいらない、終わりにしたいんだ♪という歌詞が生き生きしています。

 思えばバウハウスは節目節目でカバー曲を投入してキャリアを積み重ねてきました。ボウイの「ジギー・スターダスト」、Tレックスの「テレグラム・サム」。いずれもオリジナルとは異なる魅力を放っていました。ジャズ・ミュージシャンのスタンダード解釈のようなものです。

 このアルバムはマーフィーのソロ・デビュー作で、もちろん「ファイナル・ソリューション」が含まれています。のちにこの曲のさまざまなバージョンを網羅したデラックス・バージョンが発表されたほどですから、やはり誰が考えても代表曲となったわけです。

 アルバムのプロデュースはディス・モータル・コイルで知られるゴス仲間のアイヴォ、サウンド面のパートナーはアラン・ランキンの後釜としてジ・アソシエイツで活躍していたハワード・ヒューズが務めています。ここに必要に応じてゲストを交える形でアルバムができています。

 そのゲストの中には、バウハウス仲間のダニエル・アッシュの名前も見えます。彼は「アンサー・イズ・クリア」でギターを聴かせてくれます。皮肉なことにこの曲はアッシュがマーフィーをあてこすったトーンズ・オン・テイルの曲へのアンサー・ソングです。

 もう一曲あるカバー曲はマガジンの「ライト・ポアーズ・アウト・オブ・ミー」です。これもカッコいいカバーで、面白いことに、ここにはマガジンのギタリストでもあるジョン・マッギオークが起用されています。ハワード・デヴォートに比べるとやはり声がいいだけに素直にカッコいい。

 本作でマーフィーはバウハウスのゴシック・イメージを払拭しようとしていると言われますけれども、180度違うわけではもちろんありません。サウンドには時々バウハウスっぽさを感じます。彼のボーカルの魅力である、異世界にある端正なゴス声は変わりようがありません。

 最後の曲「ジェマル」ではトルコ語で祈りを捧げるような歌声が聴けます。カトリックの家に生まれ育ったマーフィーは宗教に敏感です。彼の織りなすサウンドに近寄りがたいものを感じる瞬間があるのは、ファイナル・ソリューションを求めるキリスト教的求道のせいでしょう。

Should The World Fail To Fall Apart / Peter Murphy (1986 Beggars Banquet)