これはなかなかの曰く付きのアルバムです。この作品が録音されたのは1984年のことです。当時、フェラ・クティはいくつかのバック・カタログとともに新作を発表する権利をフランスのセルロイドというレーベルに与えており、これはそのセルロイドからの発表です。

 アルバムを録音した後のことですが、フェラは1984年9月にバンドとともにアメリカ行きの飛行機に乗り込もうとしたところを、「外貨不法所持」の容疑で逮捕されてしまいます。外貨の申告書は警察が無くしてしまったという、完全にはめられた状況です。

 裁判所に出頭したフェラは5年の実刑判決を喰らい、刑務所に収容されてしまいました。やがて、判事が上からの圧力に屈したのだと謝罪をした事実が明るみに出て、アムネスティなど国際的な批判が高まり、フェラは刑期半ばで釈放されます。

 このアルバムはその2年半もの長きにわたる投獄生活の最中に発表されています。発表にあたり、セルロイドはなぜか残されたテープは未完成でさらに手を入れる必要があると信じ込んでいて、本作のプロデュースをNYの番長ビル・ラズウェルに依頼します。

 ラズウェルはアルバムを気に入らなかったのか、フェラのソロを消してしまい、シンセ・パーカッションを加え、さらにはバーニー・ウォーレルやスライ・ダンバーによるオーバーダブを施してしまいます。かなり大幅な改変が行われています。

 フェラの友人がこのアルバムを獄中のフェラに聴かせたところ、フェラはもはや自分の作品と認めないと大そう怒った模様です。幸いなことに、オリジナルのテープが残されていたため、後にオリジナルでも発表されました。ここにご紹介するのはそのオリジナル版です。

 この頃のフェラは黒魔術への傾倒などで、それまでフェラを支えた最初の妻レミを始めとする仲間たちからも愛想をつかされ、バンドは決してよい状態ではありませんでした。そのため、全盛期に比べれば、切れ味が鈍っていると言われるのも無理はありません。

 ラズウェルが大幅に手を入れたくなったのはしょうがないとも思いますが、改変の幅が大きくて、まるでフェラらしくなくなってしまいました。セルロイドは当初デニス・ボーヴェルに頼みましたが、捕まらなかったんだそうです。ボーヴェルならうまくやったでしょうに。

 さて、サウンドはこれまでのフェラに比べると、ゆったりとしたミディアム・テンポで進みます。しかし、言葉は相変わらず鋭いです。ここで批判しているのは、クーデターで1983年に誕生したモハマド・ブハリ政権です。文民政権にも批判を緩めなかったフェラですから当然です。

 本作品、つまりオリジナル・バージョンでは、「アーミー・アレンジメント」と「ガバメント・チキン・ボーイ」の2曲がそれぞれ約30分ずつ、計60分となっています。ラズウェル版は16分と5分ですから、大幅な編集がなされていることがわかります。

 このゆったりテンポで60分というのが、フェラの新しい魅力とも言えます。このアフロ・ビートに身を委ねていると、アフリカ70とは異なるエジプト80の新たな魅力が分かる気がします。大変な状況でエジプト80を支えるフェミ・クティやアニマシャインには頭が下がります。

Army Arrangement / Fela Anikulapo Kuti & Egypt 80 (1985 Celluloid)