米TIME誌の選ぶ2018年ベスト10アルバムに選ばれた作品は、「コロンビア出身のレゲトン/ラテン・ポップ・シンガー、J.バルヴィン」による5作目にして、本邦デビュー作品です。サマーソニックへの初来日に合わせて日本でも発売されました。

 コロンビアといえば、2017年に50年に及ぶ内戦に終止符がうたれた後も戦闘が続いている国ですけれども、堅実な経済運営で比較的豊かな生活を享受する南米の大国です。そして何より大衆音楽の宝庫といってよい国です。

 バルヴィンはコロンビア生まれのアーティストです。17歳で米国に留学し、19歳で帰国してから、本格的に音楽の道を志します。地元であるコロンビア第二の都市メデジンで活動を始めると、次第に人気を得て、2009年にデビュー・アルバムを発表しています。

 その後、中南米を中心にヒットを飛ばすと、米国においてもラテン・チャートを賑わすようになります。そして、2017年に発表したシングル「ミ・ヘンテ」が「iTunes、Spotifyのグローバル・チャートで1位に輝き、YouTubeでの再生も18億回を超え」る世界的ヒットになりました。

 さらに「マチカ」、「アオラ」、「アンビエンテ」と続くシングルが軒並み1億回を越えて再生されていますから、もはやまぐれでもなんでもありません。ビヨンセ、ジャスティン・ビーバー、ワン・ダイレクションのリアム・ペインとの共演も果たすに至りました。

 本作品は、名前をあげたシングルをすべて含むバルヴィンの5作目です。タイトルは「ヴィブラス」と付けられました。英語で言えば「ヴァイヴス」です。「とにかく全体の”ヴァイブス”が最高に素晴らしいってことさ」とは本人による軽やかな解説です。

 彼のスタイルは、一般にレゲトンと呼ばれます。レゲエとヒップホップが融合されたスタイルですけれども、代表とされるダディー・ヤンキーのアゲアゲのサウンドと比べると、随分とレイドバックして、ムードたっぷりに歌われるスタイルです。

 プロデュースは、同郷の友アレハンドロ・ラミレスとレゲトン界の若きエース、マルコ・マシスというスカイ&タイニーを称する二人がほとんどの曲を手がけています。リズム・トラックに、音数を抑えたキラキラした上物が絡むしみじみと胸に染みるサウンドに仕上げています。

 大ヒットした「ミ・ヘンテ」はフランス人DJのウィリー・ウィリアムスが共演、プロデュースも手がけています。今や20億回を超える再生というわりには地味目な曲で、それが世界中の人のツボにはまったのでしょう。大事に聴きたくなる素敵な曲です。

 共演するミュージシャンはスペイン、西インド諸島、ブラジル、メキシコなど世界中から呼ばれており、レゲトンのみならず汎大西洋音楽とでも言えばいい拡がりをみせています。アルバム・コンセプトの一つに起源を知るという意味で「恐竜」があるのも分かります。

 全編スペイン語で歌うバルヴィン。これで頑固な全米を制するというのもいい話です。なめらかでしなやかなサウンドはクラブ・ミュージックでもあり、ラテン・ポップでもあり、落ち着いてもいるし、心躍るものでもあります。ラテンの現在を示す極上のアルバムです。

Vibes / J.Balvin (2018 ユニバーサル)