フランク・ザッパに見出だされ、デヴィッド・ボウイに見初められ、ブライアン・イーノに見込まれて、ロバート・フリップを魅了したという、こじらせたロック小僧には垂涎のキャリアを歩んだギタリスト、エイドリアン・ブリューのソロ・デビュー作です。

 エイドリアンは本作品が日本でCD化される「ニュースを聞いて子供のように飛びあがって喜んだよ。20年も待ち続けて、ついに僕の3枚のソロ・アルバムがCDとして再発売されるんだ!宝を生き返らせてくれてありがとう」と語っています。

 そんな凄いキャリアなのに、このギャップはなんなんでしょう。確かに発表当時、あまり評判は良くありませんでした。思うに嫉妬ですかね。エイドリアンはとても良い人そうなだけに、そうした一般人の嫉妬の対象になりやすいです。可哀想です。

 エイドリアンがこのアルバムを制作した時期には、すでにキング・クリムゾンのメンバーでしたし、イーノつながりでトーキング・ヘッズのスピンオフでもあるトム・トム・クラブのアルバム制作に参加していました。アイランドとのソロ契約は後者のつながりです。

 本作の制作はトム・トム・クラブのアルバム制作と同時期に同じスタジオで行われています。サポート・メンバーはエイドリアンのクリムゾン以前のバンド、ガ・ガから参加しています。あえて豪華ゲストではないところにエイドリアンの良い人ぶりが垣間見えます。

 アルバムのタイトルは「ローン・ライノウ」です。「犀の角のように一人歩め」というお釈迦様の初期仏典の言葉を思い出しますが、それとは何の関係もなく、種として最後の一匹となってしまった動物園に暮らす犀がテーマです。さらに重いテーマです。

 しかし、エイドリアンのお得意はギターで動物の鳴き声を出すというもの。しっかり犀の鳴き声を模しています。鋤田正義さんのジャケット写真とともに、重いテーマをユーモラスに扱うことで、よりそのメッセージを真摯に届けることに成功しています。

 初めてのソロ・アルバムということで、エイドリアンのさまざまな顔が現れたアルバムになりました。多彩なギターは言うまでもなく、音楽キャリアの出発点だったドラム、ボブ・ディランの真似などでザッパ先生に鍛えられたボーカル、いずれも絶品です。

 40分足らずの間に11曲、バラエティー豊かでポップな曲が続きます。インストゥルメンタル曲もアイデア勝負でそれぞれが良いアクセントになっています。スピード感あふれる曲とゆったりした曲のバランスもなかなかのもので、構成が見事です。

 はきはきしたサウンドは1980年代初頭のアメリカンなものです。その点を除くと、全体の雰囲気はトッド・ラングレンを彷彿させます。ボーカルもあえてトッドに寄せているのではないかと思うほど雰囲気が似ています。ポップでプログレッシブな名作だと思います。

 最後の曲「ファイナル・ライノウ」は4歳になる娘さんの即興ピアノを密かに録音したものにギターを重ねたものだといいます。いかにもソロ・アルバムらしい所業です。大物ばかりと演奏してきたエイドリアンが初めてのびのびとやりたいことをやったアルバムなんでしょう。

Lone Rhino / Adrian Belew (1982 Island)