「ついに復活!元fra-foaボーカル三上ちさこ、13年ぶり渾身のフルアルバム」です。フラホアと聞いてどれだけの人が熱くなるのか定かではありませんが、少なくとも私は熱くなりました。彼女たちのデビュー作は本当に良いアルバムでした。

 フラホアは2000年にデビューして、2005年に解散しています。その後しばらくソロ活動を行いますが、解散と同じ年のうちにメジャーレーベルを離れています。三上の妊娠と出産がそのきっかけで、その後は子育てに専念していたそうです。

 しかし、子どもが大きくなってきて、「何か足りないというか、満たされないという気持ちになって。」、「貯金をはたいてゼロからソロ活動を始めたんです」と、何だか典型的な子育て女性の再出発を体現した道行を演じています。

 自主制作ミニ・アルバムを発表したり、ライブを行ったりはしても、なかなかブレイクには至りません。このあたりもありがちな話です。しかし、さすがは元フラホアです。そんな時にクリサンセマム・ブリッジこと保本真吾から声がかかり、このアルバムが誕生しました。

 保本はセカイノオワリで成功したプロデューサーです。公式サイトによれば、三上とは「「今の音楽シーンを覆すような、最高のアルバムを作ろう!』と意気投合、いろいろな試行錯誤と紆余曲折の末、3年という制作期間をかけついに」本作品が完成したということです。

 3年の間には、保本の考える成功するミュージシャン像と、「一人よがり」な三上の衝突があり、悔い改めた三上が「ようやく自分の姿を客観視できるようになった」ことで前に進めた模様です。「『この人の力になりたい』と思ってもらえるような人でいることも大切なんだ」。

 「子供を産んでからは価値観がガラッと変わりました」と言ってる人の発言とも思えませんけれども。それはともかく、やはりアーティストとしてはフラホア時代の「とにかくすべてを『破壊』したかった」が根底にあったのだということなのでしょう。

 出来上がった作品は、全部で10曲、「ロック要素はもちろん、デジタル・サウンドを取り込んだ新たな音像を聴かせ」る作品です。ロック系シンガーソングライターを自認する三上は全曲の作詞と8曲の作曲を手がけています。残りの2曲は保本作曲です。

 保本はすべてのサウンドを作り上げるプロデューサーの役割を果たしており、二人のコラボ作品というにふさわしい作品となっています。保本のサウンドはまさにJポップの現在と言えるもので、聴いている者にとっては大変勉強になります。

 三上の曲は相変わらず歌詞に独特な世界観があります。ボーカルの力強さではフラホア時代を彷彿させますが、こちらは明るく元気いっぱいなメジャー仕様のボーカルとなっています。当時とは印象が大きく異なる所以です。

 Jポップ職人哲学を体現したサウンドになっており、卒なくまとまったアルバムです。13年ぶりとも思えない三上の若々しい姿を前に、フラホアの思い出が出る幕はありません。しかし、昔のファンを置いて行かないと面白い作品などできません。復活の宿命でしょう。

I Am Ready! / Mikami Chisako (2018 Slide Sunset)