「一生懸命働くダイナマイト男」JBことジェイムズ・ブラウンが亡くなったのは2006年のクリスマスのことでした。御年73歳。一般紙にも「ジェイムズ・ブラウンさん、死去」の記事が掲載されました。エスタブリッシュメントと相性が悪いJBのこと、何だか妙な気がしたものです。

 JBは御大という言葉が似合う人です。そして、その御大感がとても裏社会風です。ですから、井筒監督の「ゲロッパ」で描かれたようにJB好きのやくざの親分がいても全く違和感がありません。どんなにスターになっても裏街道がよく似合う人でした。

 そんな御大ですけれども、私が洋楽を聴き始めた1970年代半ば頃、日本でJBの話題を聞く事はほとんどありませんでした。1970年にこんな傑作を発表しているのに、なぜか過去の人状態。日本にファンクが根付くのはしばらく後の話です。

 これが♪ゲロッパ♪です。アルバムの冒頭に10分を超える「セックス・マシーン」が入っています。全ての楽器がリズム楽器となっている、どファンクのこの曲、印象的なフレーズがまさに♪ゲロッパ♪です。繰り返されるぱっつんぱっつんのリズムにとろけます。

 本作はそんな代表曲をタイトルとしたアルバムです。2枚組で1時間強、ジョージア州オーガスタで行われたライヴを録音したものとジャケットに書かれている通り、観客の拍手や喝采が入っているライヴ・アルバム、ということになっています。

 オーガスタはJBが幼少期を過ごした街です。そこに舞い戻って新居を構えたJBは、人種問題で暴動が起こった際、ラジオで落ち着くよう呼びかけ、一段落したところでライヴを行いました。1969年10月1日のことです。思い入れのあるライヴであることが分かります。

 長らくこのアルバムはそのライヴだと信じられていましたが、1980年代になって研究が進むと、実はその日のライヴ録音は2枚目だけだったことが判明しました。「セックス・マシーン」を始めとする1枚目はスタジオ録音に拍手喝采をオーバーダブしたものなんです。

 そのうち1曲を除く4曲は1970年7月に録音されています。ここがとても重要でした。その間にバンドが入れ替わったんです。ライヴ時は長年苦楽を共にしてきたバンドでしたが、メイシオ・パーカーを中心に自分たちのアルバムを出そうとしたことがJBの逆鱗に触れます。

 全員を首にしたJBが白羽の矢をたてたのが、ブーツィーとキャットフィッシュのコリンズ兄弟のバンド、ペイスメーカーズで後にJBズと呼ばれるようになるバンドです。70年録音はこちらのバンドです。それを頭に入れて聴き比べができるという贅沢なアルバムだったんです。

 というわけで、何とも豪華なアルバムです。この頃のJBのサウンドはファンクの完成形とも言えるものですから、悪かろうはずがない。さまざまな楽しみができるのもJBの統率力があればこそ。演奏で間違うと罰金が課されたそうですから緊張感も高いです。

 御大JBの凄味が存分に伝わる名盤です。JBのアルバムは粗製乱造気味ですが、ライヴ盤を追っていけば間違いありません。半分ライヴじゃない本作ですけれども、アルバムとしてのまとまりはしっかりしていて、安心して購入できる一家に一枚の名作です。

Sex Machine / James Brown (1970 King)