ジャネル・モネイは「ムーンライト」に「ドリーム」という、ここ数年に見た映画の中でも私にとっては5本の指に入ろうかという名作に出演しています。もうそれだけで十分すぎる活躍ですけれども、やはり彼女はミュージシャンでした。

 この作品はジャネルの5年ぶり3枚目のアルバムです。かなり強烈なコンセプトを持っていた前2作とは異なり、一見すると大人しめのアルバムですけれども、アルバムとほぼ同じ長さの映像も同時に公開されるという、やっぱりコンセプト・アルバムです。

 本作品の発表にあたって、話題となったのは、まずは彼女自身がクイアであることをカミング・アウトしたことでした。一昔前とは違って、極めて自然な受け止められ方ではありますけれども、やっぱり話題は話題、LGBTQを巡る状況は一筋縄ではいきません。

 もう一つはプリンスの存在です。デビュー当時からプリンスに目をかけてもらっていたジャネルにとって、2016年のプリンスの逝去は大きなショックだったことは想像に難くありません。実際、本作品の完成が遅れたのはそのせいでもありました。

 ブックレットにはプリンスに対する賛辞が添えられており、その中にはペイズリーでのジャム・セッションと5時間に及ぶ対話への感謝が捧げられていますから、アルバム制作にはプリンスも関わっていたことでしょう。

 本作にはプリンスの「KISS」によく似ていると話題の「メイク・ミー・フィール」を始め、プリンスの影響を隠そうともしない楽曲が何曲か含まれています。そうでなくてもアルバム全体を覆うディスコ・ファンク・サウンドにプリンスの影を見ることは容易です。タイトルも含めて。

 親しい人の死に直面すると人恋しくなるのではないでしょうか。本作にはさまざまなゲストが係わっていて、人々の息吹きに溢れています。その中には驚きのブライアン・ウィルソンまで含まれています。フィーチャリング・ブライアン・ウィルソン。

 ビーチボーイズのレジェンドは、タイトル曲のコーラスに参加しています。アカペラ風の楽曲ですから、ビーチボーイズっぽいコーラス・ワークが光ります。これが冒頭にあるおかげで、これから何が始まるのか、ワクワク感がたまりません。

 アーティスト名が明記されているのは、他にレニーの娘ゾーイ・クラヴィッツ、ハッピー男ファレル・ウィリアムス、そしてカナダの女性アーティスト、グライムスです。オバマ元大統領の演説からの引用もありますし、さまざまな人の気配を強く感じるアルバムです。

 ブックレットには各楽曲ごとにインスピレーションの元となった出来事なり人物なりが記載されており、直截な歌詞と相まって、全体にメッセージ色の濃い政治的なアルバムともなっています。そこらあたりはジャネルの真骨頂と言えるでしょう。

 最先端のサウンドではありますけれども、どこか懐かしさも感じさせてくれます。考え抜かれたサウンド展開がとてもポップでもあり、攻撃的なサウンドでない分、シリアスな主張が聴きやすい。さすがは女優としても大成しているアーティストです。新しいR&Bです。

Dirty Computer / Janelle Monáe (2018 Wondaland)