グルノーブル冬季オリンピックには強い思い入れがあります。リアルタイムでもテレビで観戦していましたけれども、その印象を決定づけたのはクロード・ルルーシュ監督の記録映画「白い恋人たち」でした。それは初めて受けたヨーロッパの洗礼と言ってよいでしょう。

 それまで外国と言えばほぼアメリカでした。テレビでは「モンキーズ」にハンナ・バーバラ、さらにはアメフト、ハリウッド。そうした子どもに分かる海外とは一線を画す大人のヨーロッパ。同じスポーツなのにここまで違うかと衝撃的でした。

 「白い恋人たち」なんていうベタな邦題に対して、原題は「フランスの13日」とこれまたお洒落全開です。その主題歌を作曲したのがフランシス・レイでした。私のフランス観はフランシス・レイとアラン・ドロンによって形作られたと言えます。黄色いベストではありません。

 そのフランシス・レイは2018年11月に82歳で天に召されました。日本でも愛された人だけに、逝去のニュースのわずか2日後に編集盤が企画されました。それが本作品で、企画したのはサラヴァ音源の日本での発売権を持つコアポートです。

 したがって、本作「あの夢をふたたび」には「サラヴァ時代」との副題が付けられています。選曲を担当したのは音楽評論家の松山晋也氏です。彼は「ピエール・バルーとサラヴァの時代」なる本を著していますから、まさにうってつけの人材です。

 本作には、嬉しいことに「白い恋人たち」はインストゥルメンタル、コーラス、歌詞違いの「ノエル」として3回も登場します。そして同じ映画からは「キリー」、三冠王のジャン・クロード・キリーも選ばれています。さらに、これは外せない「男と女」も。

 レイのキャリアとしては比較的初期の作品ばかりです。彼は10代の頃から、故郷のニースでアコーディオンやピアノ奏者として活動を始め、やがてパリに上京して、頭角を現し、ジュリエット・グレコなどの伴奏、エディット・ピアフへの曲提供などを行うまでになります。

 1961年に新進気鋭のアーティストにしてサラヴァを創設したピエール・バルーと出会うと二人は盟友として、憑かれたように一緒に曲作りに取り組むようになります。バルーはレイとルルーシュの出会いも演出し、これが「男と女」の大ヒットにつながります。美しい話です。

 この作品にはピエール・バルーのシングルやアルバムで発表された曲が10曲含まれます。さらに映画「あの愛をふたたび」やフランソワーズ・アルディが歌う「愛よもう一度」のサントラ、バルーがサラヴァ設立前に発表したEPからの曲などが収録されています。

 貴重なのはフランシス・レイその人が歌う曲です。バルー曰く「極端に控えめで礼儀正しい性格」が存分に感じられて、好感が持てます。バルーの魅惑の不良ボーカルとは方向性が異なると言ってよいでしょう。二人のコンビは面白いです。

 私の思うフランスはフランシス・レイによるものなのだということを知らしめてくれるアルバムです。メロディーの癖の一つ一つがフランス的。レイはイタリア移民の子で、そういう出自ならばこそ、フランスの真髄を体現するのでしょう。美しい大人のフランスがここにあります。

Un gôut d'éternité / Francis Lai (2019 コアポート)