1960年代後半から1970年代初め頃、テレビで見かける女性歌手は20歳になるかならないかという年齢でも随分と大人びて見えたものです。当時私は小学生でしたから当然といえば当然ですけれども、すっかり大人になってから見返してもそう思います。

 ソニア・ローザが日本にやってきたのは1969年、20歳の頃です。日本人アイドルでも大人びて見えたくらいですから、ましてや外国人、それもブラジルからやってきて、大人の音楽ボサノヴァを歌う。強烈に大人の女性のイメージしかありません。

 しかも、この頃テレビに出ていた外国人女性と言えば他にはロザンナは別として、イーデス・ハンソンくらいしか思い浮かびません。というわけでお茶の間の人気者になっていたソニア・ローザのことは比較的よく覚えています。

 そのイメージとこのアルバムが結びつかない。最初は同姓同名の別人ではないかとさえ思いましたが、それはテレビで活躍していた頃の彼女の歌を忘れてしまっていたからでした。まだ私も子どもでした。許してください。

 このアルバムはソニア・ローザのブラジルでのデビュー・アルバムです。サンパウロ生まれのソニアは12歳の時に学校の先生に作曲を依頼されたことをきっかけに作詞作曲を始めました。その時までに書いていたポエムブックが先生に評価されてのことでした。

 いい先生に巡り合ったものです。ギターも弾いていた彼女は、それから自作曲をコンクールで歌うようになり、それが認められて18歳の時にブラジルのコンティネンタル・レコードからデビュー作となる本アルバムを発表しました。ソニア18歳の時です。

 どうイメージが結びつかないかというと、この作品でのソニアの歌声がかわいいんです。可愛すぎる。ライナー中の中原仁さんの「可憐で温かなエンジェル・ヴォイス」という表現がぴったり当てはまります。儚げでついつい手を差し伸べたくなる声です。

 最初の曲「私をみてごらん」では、ソニア自身が「自分の曲を素晴らしいアレンジでレコーディングできたことへの感謝」から感極まって涙する音が入っています。まるで日本のレコード大賞のようです。何を言いたいかというと、アイドルそのものなんです。

 もっとも、ソニアは単なるアイドルではありません。全12曲中6曲が自作曲、まさにシンガー・ソング・ライターです。当時はまだブラジルでも女性のシンガー・ソング・ライターは貴重な存在だったそうです。小学校の先生に感謝せねばなりません。

 演奏が極上です。シキーニョ・モラエスと彼のオーケストラが演奏を務めているのですが、すべてオーヴァーダビングなしの一発録りで録音されています。とても丁寧で温かい演奏で、ソニアとの相性も抜群です。ソニアのギターも素敵です。

 まだ10代の女性が歌うボサノヴァを酸いも甘いもかみ分けたオーケストラが支える構図は、ブラジル音楽界の懐の深さを感じます。この後、彼女は半年の約束で来日し、そのまま日本に移り住むことになりました。「このレコードがあったからこそ」です。

A Bossa Rosa De Sônia / Sônia Rosa (1967 Continental)