ダモ鈴木と言えば、クラウト・ロックの伝説的なバンド、カンに参加していたことで有名です。しかし、それはダモさんが23歳、1973年までのこと。彼の活動はそこから延々と続いていきます。商業主義に完全に背を向けているので、あまり知られていないのが残念です。

 ダモ鈴木は1997年頃からダモ鈴木ネットワークとして、世界中のさまざまなミュージシャン、ダモの言い方を借りるとサウンド・キャリアと共演するプロジェクトを始めています。何でも5000人以上の人と演奏をしているのだそうです。

 この作品もその一環です。時は2006年3月5日、東京にあるUFOクラブにて行われたライブの模様を収録したのが本作品です。タイトルは「宇宙の果ての天国の火」というもので、副題として「ライブ・アット・UFOクラブ」が用いられています。

 三面開きの紙ジャケットには砂漠が延々と描かれています。直接には一曲目が「クリスタル・デザート」だからでしょうが、ダモ鈴木はサハラ砂漠を3日間彷徨って、死にかけたというエピソードが有名ですから、恐らくはそれを念頭においてのジャケットでしょう。

 参加しているサウンド・キャリアは、キーボードにゴッド・マウンテンのホッピー・神山、バイオリンにROVOの勝井祐二、ベースに佐藤研二、ドラムにルーインズの吉田達也です。佐藤はイカ天でお馴染みのマルコシアス・バンプの人だと思われます。

 ダモ鈴木の音楽はインスタント・コンポージングと自称しています。即興演奏という使い古された言葉を使いたくないということですけれども、リハーサルもなく、一切の決め事もなく演奏が行われていくわけですから、即興演奏には違いありません。

 しかし、この即興演奏というもの、ボーカルが最も難しいのではないでしょうか。楽器ならば滅茶苦茶に弾くことが何とか可能でしょうが、全く自由に歌を歌うことは考えるだに難しい。ことにダモの場合、スキャットではないので、言葉からの自由も必要です。

 ダモ鈴木のボーカルは日本語でもドイツ語でも英語でもないダモ語です。しかし、でたらめに聴こえるわけではなく、自分には理解できない国の言語で歌われているように感じます。これはそう簡単にできることではありません。

 この作品は一応5曲に区切られています。もちろん一つながりのマラソン・セッションを便宜上区切ったようなものですが、曲としてのまとまりが感じられるのがまた面白い。5人の完全即興から、曲が切り出されてくる。カンの曲作りに通じるものがあります。

 ダモは共演ミュージシャンの予習はしないのだそうです。あくまでその場での交感から生まれてくるものを尊重するスタイルです。アルバムを聴き通した直後にもう一度最初に戻ると驚きます。各人がお互いを探り合う様子が見えてくるんです。

 サウンド・キャリアそれぞれが、ダモとの演奏から生まれてくるグルーヴを見出し、それが統合されていく。そんな物語がはっきりと見えてきます。聴き手も一緒に一つになって盛り上がっていく。そんな体験こそが本作がもたらす至福の正体でありましょう。

The Fire Of Heaven At The End Of Universe / Damo Suzuki (2007 Vivo)

メンバーは違いますが、近い年代のUFOクラブ・ライブです。