クラムド・ディスクはパンク/ニュー・ウェイブ期にベルギーで設立されたレーベルです。大陸からはクレピュスキュールなどが日本にも紹介されており、クラムドはそれに続く一筋縄ではいかないクセの強いレーベルという位置づけでした。

 多くの自主レーベルが短命に終わったのに対し、クラムドはしっかりと現在も世界中のアーティストを擁して、これまでに350枚ものアルバムを発表しています。そのクラムドの創始者も参加しているのがこのハネムーン・キラーズです。

 ハネムーン・キラーズは、ベルギーのアヴァン・ロック・バンド、アクサク・マブールとレ・トゥエール・ドゥ・ラ・リュネ・ドゥ・ミエルの二つのバンドのメンバーのコア・メンバーが合体して誕生しました。ここに紅一点のヴェロニク・ヴィンセントが加わります。

 レ・トゥエールは、モーツァルトとキャプテン・ビーフハートから影響を受けたとする予測不可能なパフォーマンスをする男イヴォン・ヴロンマンのバンドで、生肉を観客に向かって投げていたらしいですから、ザ・スターリンのようなバンドでもあります。

 ハネムーン・キラーズはレ・トゥエール・・・の英語訳です。もともとは米国のレナード・カッスル監督によるカルト映画の題名ですから、英語訳の方がオリジナルではあります。新たなプロジェクトでありつつ、連続性も意識しているという面白い名前です。

 彼らの音楽は、「ニューヨークのノー・ウェイブとフレンチ・ポップを融合し、キャプテン・ビーフハートをちょいとまぶして、バカげたユーモアをしっかり服用したような」音楽だとレーベル側は解説しています。ノー・ウェイブの中ではDNAあたりでしょうか。

 フレンチ・ポップ・サイドはヴェロニク、ノー・ウェイブ・サイドはイヴォン。ハネムーン・キラーズの魅力はこの二人の個性的なボーカリストが担っています。まるで美女と野獣のような二人がフロントに立って歌うわけですから、ビジュアル的にも面白い。

 演奏の方は、アクサク・マブールの二人を中心に、この当時のポスト・パンク的な音を聴かせます。サウンドの録り方がやけにオーガニックで、そこはヨーロッパ大陸ならではです。キャプテン・ビーフハートはこちらが担当でしょうか。

 しかし、ボートラで収録されているライヴを聴くと、もろにフランク・ザッパ的でもあります。ビーフハートの肉体性とザッパ先生の理性が合体したような演奏で、これが二人の個性的なボーカルと混ざり合うところがこのバンドの醍醐味です。

 ヴェロニクはイヴォンが連れてきたそうで、当時はジャーナリスト兼モデルでした。彼女は「ロックはシリアスすぎるのよ」と言う名言を残しています。彼女によってバカげたユーモアもバンドにもたらされました。すでに亡くなられているのが残念です。

 大陸的という言葉を使う際には、頭の片隅に演劇的という言葉が掠めているものです。ハネムーン・キラーズもまさに演劇的でした。イヴォン中心かヴェロニク中心かで雰囲気が違うので、まるでオムニバス・ドラマをみているようです。異彩を放つバンドでありました。

Les Tueurs de la Lune de Miel / Honeymoon Killers (1981 Crammed)