漆黒のメタル、ブラック・メタルはなぜかノルウェーを拠点として巻き起こった一大ムーヴメントです。すでに誕生から20年以上を経過し、ヘビー・メタル界に確固たる地位を築いています。スラッシュ・メタル、デス・メタルに連なる暗黒のメタルです。

 本作品は「デンマーク出身のブラックメタル期待のMyrkurが輩出した傑作デビューEPに続く1stフルレンス・アルバム『M』」です。Myrkurは何とミシュクルと発音するそうです。デンマークはスカンジナビア半島ではありませんが、北欧の一味です。

 このミシュクル、実はアマリー・ブリューンというデンマーク生まれで米国在住の女性によるプロジェクトです。アマリーはモデルであり、ポップ・ミュージシャンでもあるというブラック・メタルらしからぬ経歴の女性です。

 デビューEPを発表すると、一部には「オシャレさんはブラック・メタル界から消えろ!」という非難の声が上がったそうです。気持ちは分からないではありません。なんだかんだ言ってもメイン・ストリームからは程遠い世界ですから。

 しかし、大勢は高い評価を与えていましたから、すんなりと初のLPを発表するに至りました。共同プロデューサーにはノルウェー・ブラック・メタル界の重鎮ウルヴェルのガームを迎え、さらにニディングル(?)のメンバー二人をベースとドラムに配しての制作となりました。

 このメンバーからするとブラック・メタルの王道を行くサウンドが期待されます。期待通りのサウンドも展開するのですが、ミシュクルの最大の特徴は格調高いノルディック・フォークとブラック・メタルの融合にあります。天使の歌声と悪魔の叫びが同居するサウンドです。

 2018年12月にロンドンで行われたミシュクルのステージは前半がアコースティック・セットで北欧の透明なフォーク・ソングを歌い、後半はプラグをインしてブラック・メタルに突入するというものだったそうです。メタル野郎が大人しくフォークを聴いている不気味さはどうでしょう。

 このアルバムでも、フィオーラやハーディンガーなどの北欧の伝統楽器やバイオリンも交えて、ソプラノ・ボイスで美しい旋律を歌う曲と、ロック・セットが極端なスピードで団子状の音を出し、腹の底から絞り出すようなうめき声でがなり立てる曲が共存しています。

 ここまでスピードを上げるとゆらゆらと揺れてくるので、団子というよりもわらび餅のようなサウンドと言った方がよいでしょう。そのわらび餅からメロディーが浮かび上がってくるのがブラック・メタルの真骨頂でしょう。叫びも死に顔化粧のアマリーがやっている模様です。

 静から動への対比も見事ですし、それが重なり合う曲も見事。ヘビー・メタルにはバラードの名曲が多いですし、クラシカルとも相性が良いですから、ミシュクルのサウンドは考えてみれば王道中の王道と言えるかもしれません。

 おシャレさんは要らないどころか、おシャレさんの降臨で、教会放火事件などによるネガティブなイメージが変化するのは望ましいことです。いかにも北欧らしい、繊細な美と破壊的な美を同居させた素敵な作品が登場したものです。

M / Myrkur (2015 Relapse)