「この感動と衝撃をいったい誰に伝えればいいのだろう?ある寒い冬の夜、薄明りのなかで呆然としている自分がいた。」、「中世的頽廃感に包まれた悲哀と切ない叙情美に心を震わせていた。」。解説の祖父尼淳氏を始め、多くのロック少年を震わせた作品です。

 「ニュー・トロルスのためのコンチェルト・グロッソ」はビート・ポップス・バンドとしてデビューしたニュー・トロルスが初めてオーケストラと共演したアルバムです。彼らにとっては3枚目のアルバムで、イタリアン・プログレの代表作にして、「音楽史に燦然と輝く大傑作」です。

 「コンチェルト・グロッソ」とは「大きなコンチェルト」という意味で、バロック時代の器楽曲の形式の一つです。小楽器群と合奏群のための楽曲ですから、ロック・バンドとオーケストラの共演にはこれ以上ないくらいの形式だといえます。

 本作では、A面がオーケストラとの共演による「コンチェルト・グロッソ」、B面がニュー・トロルスのみの即興ライヴ録音と明確に分かれています。コンチェルトは4楽章に分かれているとはいえ、曲数で言えば長尺の曲が2曲あるだけです。

 しかし、この作品は映画のサウンドトラックです。どうやって当てはめたのかはよく分かりません。映画はマウリツィオ・ルチーディ監督のスリラー、「定められた生贄」というそうです。日本では未公開で、どうやら大ヒット作でもカルト作品でもなさそうです。

 ロック少年の魂を震わせた「コンチェルト・グロッソ」を作曲したのは、マカロニ・ウェスタンなどで活躍していた映画音楽家ルイス・エンリケ・バカロフで、彼はオーケストラも指揮しています。泣きのメロディーが匂い立つ映画音楽家らしい作品だと思います。

 歌詞には「ハムレット」の「生きるべきか死ぬべきか」に続く句♪死か眠りか、おそらく夢を見るために♪を繰り返すドラマチックな演出です。サウンドはゴージャス&キャッチーで、第三楽章カデンツァは本邦で発売されカメリア・ダイヤモンドのテレビCMにも使われました。

 ビート・バンドだったニュー・トロルスの片鱗は第四楽章に表れています。この楽章はオケが入らず、「ジミ・ヘンドリックスに捧ぐ」と副題がついているように、ジミヘンばりにエフェクターを使ったギターが大暴れしています。バカロフもせっかくロック・バンドだしと思ったのでしょう。

 B面は一転してインプロヴィゼーションの応酬です。ニュー・トロルスはギターが二人にドラム、ベースの四人組ですが、ここにはマウリッツィオ・サルヴィがオルガンで加わっている模様です。そしてギターのヴィットリオ・デ・スカルツィはフルートも吹いています。

 コンチェルトの第四楽章を間に挟んでいるので緩和されていますが、A面からは大転換です。各楽器のソロが炸裂し、貧乏ゆすりしているようなドラム・ソロまであります。これぞイタリアのザ・プログレッシブ・ロックです。鈍器のような演奏です。

 なかなか不思議な成り立ちのアルバムで、ニュー・トロルスが自分たちの方向性を模索している作品なのに大傑作というのが面白いです。この後のニュー・トロルスも紆余曲折を経ていきますが、自分探しが傑作に繋がるのであれば、彷徨もまた良しということでしょう。

Concerto Grosso / New Trolls (1971 Fonit Cetra)