「ベック・ギターの真髄!ロック魂を金縛り!」とコピーが熱いです。さらに「豪快!鮮烈!凄絶!史上最高のギタリスト、ジェフ・ベックの情念をこめた必殺の神技が、すべてのロック魂を不動金縛りにする!」と解説が施されます。本作を前にした当時の熱気が分かります。

 ジェフ・ベックはギター小僧たちの憧れでした。前作をジミー・ペイジが「ギターの教科書だ」と評しましたが、本作品はさらに攻撃的にギターを追及していますから、ギター小僧は狂喜乱舞しました。「悲しみの恋人達」のような軟弱な曲もないぞと。

 この熱気は私のようなギターを弾けない者には共有できるわけもなく、何だかジェフ・ベックのことを云々するのは恐ろしく思ったものでした。おまけに「悲しみの恋人達」のような私にとってはありがたい泣きのメロディーの軟弱曲は入っていないし。

 実は、冒頭に掲げたコピーに違和感があります。本作が前作でベックが切り開いたロックからジャズへの越境アプローチをさらに純化して推し進めた作品だからです。ロック魂というよりもギター魂でしょう。ロックにこだわらずとも素直に感動すればいいのに。

 ようやくソロになって肩の荷を下ろしたジェフ・ベックは前作の成功に気を良くして、同様の路線をさらに展開しました。今回もジョージ・マーティンをプロデューサーに起用して、マハヴィシュヌ・オーケストラを念頭に置いた独自サウンドを追及します。

 本作ではさらにヤン・ハマーにナラダ・マイケル・ウォルデンというマハヴィシュヌ・オーケストラのアルバムにも参加していたミュージシャンが大きな役割を果たしています。どれだけ好きなんだと思いますが、これはまた見事に成功しています。

 ヤン・ハマーのシンセサイザーはやたらとアグレッシブで、ベックのギターとバトルを繰り広げています。特に二人だけで演奏した「青い風」は名曲です。ベックのギターとハマーのシンセ&ドラムが疾走するサウンドは新境地でもあるでしょう。

 ウォルデンのドラムも強烈です。重戦車のカーマイン・アピスとはまるで異なる切っ先鋭いドラムです。ベースにはジェームズ・ブラウンに起用されていたウィルバー・バスコムが選ばれています。このメンバーと渡り合うにはJBとの経験でもないと難しいのでしょう。

 前作で大きな役割を果たしたキーボードのマックス・ミドルトンも参加しています。クラヴィネットとエレピで、ジャズ・フィーリング溢れる演奏を聴かせます。彼もウォルデンやハマーに煽られたことでしょう。よりアグレッシブなプレイになっているように思います。

 ドラムには前作のリチャード・バレイが参加している曲が2曲あります。ソロならではです。こうした面も含めてジェフ・ベックはソロとしてのキャリアを謳歌しているようです。それはギターにも表れ、もう全編ギターを弾きまくりです。ボーカルの邪魔も入らないってなもんです。

 ギター小僧たちが狂喜乱舞するのも分かります。バラード曲でも前へ前へ出てくるアグレッシブなギターです。私も初めてジェフ・ベックのギターを堪能した気になった作品です。鋭角に切り込んでくる圧倒的なギター・サウンドを愛でるには最高のアルバムだと思います。

Wired / Jeff Beck (1976 Epic)