あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。

 クラシック・ギターでは村治佳織をひいきにしているのですが、たまには他の人の作品も聴いてみないといけないと思い立ち、うちにあるCDを引っ張り出してきました。クラシック・ギターと言えばこの人、ナルシソ・イエペスの作品です。

 少なくとも日本では最も有名なギタリストではないでしょうか。私も小さい頃からイエペスの名前だけは知っていました。何と言っても、ギターと言えば「禁じられた遊び」、「禁じられた遊び」と言えばイエペスです。こういう形で知っていたわけです。

 イエペスは1927年にスペインで生まれたギタリストです。24歳の時にセゴビアの代役として手掛けた「禁じられた遊び」が大ヒットして、世界的に有名になりました。1997年に69歳で亡くなるまで精力的に世界中を飛び回った人でした。

 ロドリーゴの「アランフェス協奏曲」はイエペスが20歳の時、スペイン屈指の指揮者アルヘンタに招かれて、コンサートで披露して好評を博した曲ですから、相性もいい。ということで、イエペスはこの曲を何度も録音しています。

 この作品は1969年5月にマドリードで録音されました。共演しているのはスペイン放送交響楽団で指揮はオドン・アロンソ、1968年から同楽団の指揮者を務めていた人です。もちろんスペイン生まれのスペイン育ちです。

 同時に収録されているのは、ロドリーゴが「アランフェス協奏曲」に次ぐギター協奏曲として、名ギタリスト、セゴビアの依頼により作曲した「ある貴紳のための幻想曲」です。こちらの初演は1956年、アランフェスは1940年でした。

 村治佳織盤と比べてみると、まず音が違います。イエペスは1964年から10弦ギターを開発しており、この作品も恐らくは10弦ギターによるものと思われます。10弦ギターは共鳴用の弦を4本追加したもので、音そのものが6弦よりも豊かに響きます。

 そんな豊かなサウンドを響かせるギターを手に、巨匠が繰り出すサウンドはとても折り目正しいです。この時、イエペスは40代に入り、脂がのっていた時期だと思われます。しかし、それにしては老成した雰囲気が漂っています。

 「ある貴紳のための幻想曲」は随分と華やかな曲で、生き生きとしたオーケストラのサウンドに渡り合う華麗なギターが流れていきます。さまざまな表情を見せるオーケストラに比べると、巨匠はやはり筋目のはっきりした演奏を聴かせてくれます。

 ゴヤの絵画を偲びながら作曲され、プーランクをして「隅々に至るまでひとつも余分な音符のない傑作」と呼ばしめた「アランフェス協奏曲」はまさに教科書と言っても良い演奏です。ロドリーゴとも交流の深かったイエペスです。堂々たるものです。

 しかし、私としてはロックしているように思われる村治佳織の江戸前ギターが恋しくなります。これはこれ、それはそれ。同じ曲を演奏しても随分と受ける印象が違うものです。巨匠の作品をベンチマークとしてそれぞれを楽しんでいきましょう。

Rodrigo : Concierto de Aranjuex / Narciso Yepes (1969 Deutsche Grammophon)