英語では「ビヨンド・ザ・スタンダード」、日本語では「セッション・レコーディング・シリーズ」の第二弾です。何のこっちゃ。このシリーズは、DENONによる首席指揮者アンドレア・バッティストーニを迎えた東京フィルハーモニー交響楽団の作品集です。

 コンセプトは「改めて、クラシックのスタンダードを取り上げ、この50年間で生まれた日本の名曲を組み合わせること」で、ここではチャイコフスキーの「悲愴」と武満徹の「系図」がカップリングされています。どちらも最晩年に書かれた名曲の組み合わせです。

 チャイコフスキーはヒットメーカーですから、数多くの代表作があります。その中でも「自分の最高傑作だと言い、しかも意図したわけではないのに『レクイエムの気分』が漂っているのが不思議だと自己批評をしている」交響曲第6番「悲愴」を取り上げたというのも面白いです。

 何でも標題音楽ではあるけれども、何を表現しているのかは最後まで明かされていないんだそうです。しかし、「弟が兄の同意を得て付けたと言われるニックネーム」が「悲愴」ですから、そちら方面の筋書きには違いないということでしょう。

 東京フィルの演奏はしゅっとしていて、壮大な映画を観ているような気分になります。美メロの洪水が、イタリア生まれの「国際的に頭角を現している若き才能であり、同世代の最も重要な指揮者の一人と評されている」アンドレア・バッティストーニによって迸らされています。

 この大作に続けて録音されているのが武満徹の「系図」です。ニューヨーク・フィルハーモニックの創立150周年記念にズービン・メータに委嘱されて作曲された曲です。メータの付した条件に従って「若い人たちのための音楽詩」と但し書きが付けられました。

 この曲は、谷川俊太郎の「はだか」という詩集から6篇の詩を語る語り手と、アコーディオンを含む大オーケストラのために作曲されています。語り手は「10代半ばの少女が望ましい」と指定されていますけれども、本作では「のん」が担当しています。
 
 のんは10代半ばではありませんが、まだ23歳ですし、「世界の片隅に」で声優としてその能力を遺憾なく発揮していますから、キャストとしてはぴったりです。そもそも私などは創作アーティストのんの新作として本作を買ってしまいました。

 「系図」は、チャイコフスキーとも無理なく同居できるほどメロディアスな曲です。武満徹にしては珍しい。片山杜秀氏はライナーにて「現代音楽の『常識』、あるいは家族に社会や国家の求める『良識』に異議を唱えるユウキを『系図』にメロディの力で表出した」と評しています。

 そこに、世間の常識に果敢に立ち向かうのんが挑むわけですから、面白くないはずがない。彼女の語りに宿る、純粋無垢の強さは、谷川の一筋縄ではいかない詩を糧にして、オーケストラと完全にためを張っています。泣きそうになります。

 結果的にこのカップリングは素晴らしいことになりました。バッティストーニと東京フィルはこれまでも定番作品を数多く発表してきていますから、こうした組み合わせもどんどん試して、新しい音楽大全集を編んでほしいものです。

Beyond The Standard 2 / Andrea Battistoni (2018 DENON)