次にベルが鳴るのは自分の葬式の時だとうそぶいていたマイク・オールドフィールドですが、「チューブラー・ベルズ」発表30周年を迎えるにあたって、早々にベルを鳴らしてしまいました。やはりマイクの音楽人生は「チューブラー・ベルズ」からは逃れられません。

 マイクはもちろん「チューブラー・ベルズ」を傑作だと自分でも認識していましたが、その出来栄えに100%満足しているわけではありませんでした。それというのもスタジオの空き時間を見つけては録音を繰り返していたという制作事情があったからです。

 一気呵成に集中して仕上げられたわけではありませんし、あと少しと思ってもスタジオ時間の制約で叶わないといった不満もあったでしょう。それに当時の録音技術からすれば、音を重ねるたびに音質は劣化していくわけですし。

 そんなわけでマイクは長らく「チューブラー・ベルズ」を録音し直したいと思っていたそうです。しかし、ヴァージンのリチャード・ブランソンは続編を強く求める一方で、25年間は再録音してはならないと契約で縛りをかけていました。商売人です。

 ようやく問題の25年が過ぎ、「チューブラー・ベルズII」やIIIも成功して、飽きたとは言いながらも世間の期待の高まりも感じたのでしょう。ついに30周年を迎えて、元祖「チューブラー・ベルズ」の再録音に挑みました。

 ジャケットはオリジナル・ジャケットと同じく、折りたたまれたチューブラー・ベルズと寄せる波です。並べてみると、新作の海の方がクリアな色合いですし、チューブラー・ベルズの輝きも一段とコンピューター臭い光沢を放っています。

 サウンドもオリジナルをほぼ忠実に再現しています。そして、ジャケットと同じく新作はオリジナルに比べると断然綺麗な音になっていますし、音像は極めてシャープです。ハードディスク・レコーダーでデジタル録音なんて当時は想像すらできませんでしたからね。

 異なっている点は、まずはゲスト・ミュージシャンが姉サリーのみだということ、それからMCがヴィヴィアン・スタンシャルからジョン・クリースに代わったこと。クリースはモンティ・パイソンの主要メンバーです。死んだオウムのスケッチなんて最高でした。

 オリジナルは2つのパートに分かれていただけですが、本作ではそれぞれ11曲と6曲に分けてタイトルが付されています。ファンの要望を受けて、マイクがワーキング・タイトルとしていたものをそのまま使っています。ファン・サービスでもあるわけです。

 オリジナルのごつごつした音の感触はありませんし、2300回もダビングを重ねたという執念はここにはありません。そこは寂しいのですが、その分、楽曲自体の魅力が際立っています。こんなに綺麗なメロディーが並んでいたかと驚いてしまいます。

 さすがにヒットはしませんでしたけれども、オリジナルを熟知しているだけに、鬼気迫る迫力が薄い分、気楽に聴くことができます。マイクもこれで一応満足したのでしょう。とりあえず「チューブラー・ベルズ」シリーズはこれをもって完結することとなりました。

参照:TheThe Tubular Net

Tubular Bells 2003 / Mike Oldfield (2003 Warner)