ほとんどの人にとって世紀の変わり目は1度しか経験できません。私たちは千年紀の変わり目に立ち会ったわけですから幸運です。まあ、考えてみれば勝手に区切っているだけですから、何の特異性もないのですが、人は何かにつけお祭りをしたがるものです。

 マイク・オールドフィールドは1999年12月31日にベルリンにて50万人と言われる大観衆の前でフリー・ライブを行いました。マイクがこれほどお祭り好きとは思いませんでした。それともキリスト教徒にとっては敬虔な行いなのでしょうか。

 マイクはそれに先立って、イエス・キリストの誕生からの2000年の歴史を振り返る作品を制作しました。その成果を1900年代の終わりに披露するという壮大なスケールの試みです。題して「ミレニアム・ベル」。ミレニアム+チューブラー・ベルズです。

 もはや何が「チューブラー・ベルズ」なのか訳が分からなくなっていますが、これはもはやマイク自身がチューブラー・ベルズになってしまったと考えればよいのでしょう。マイクの作品はすべて「チューブラー・ベルズ」と呼ぶと定義してしまってよさそうです。

 さて、本作品は全11曲に人類2000年の歴史が凝縮されています。このセレクションが面白いです。さすがはイギリス人です。アジアのことがまるっきり出てこないのは当然としても、なかなか考えさせられるセレクションです。

 オープニングは当然クリスマス・キャロルです。イエス・キリストの生誕から始まります。ロンドン・ヘンデル合唱団による合唱が美しい作品です。マイク・オールドフィールドらしい、牧歌的なディープ・ヨーロッパなサウンドです。

 続くのが「パチャ・ママ」。ペルーの有名な石状遺跡です。いきなりペルー、インカ帝国です。マイクはこのアルバムを制作するにあたり、ペルーを訪問しています。コロンブス前のアメリカ大陸を描写することで、1500年間を凝縮してしまいました。

 そして、コロンブスの「サンタ・マリア」号が出てきた後は、「アメイジング・グレイス」の一節から奴隷貿易のことを歌った「サンライト・シャイニング・スルー・クラウド」へと進んで、アメリカの歴史が描かれていきます。

 舞台はヨーロッパに戻り、ベネツィア共和国のドージェと呼ばれる支配者、一日で録ったというフル・オーケストラによるロマン派の時代と続きます。しかし、ここでいきなり禁酒法の米国に飛び、まるでジェームズ・ボンドのような調子に代わります。

 そして、チャーチルの言葉を借りて第二次大戦に突入し、マイクの娘さんがアンネ・フランクの日記を朗読して大戦が終わります。戦後は南アフリカのアパルトヘイトの終わりに託され、最後に全曲を振り返るイビザ仕様の大団円が未来に希望をつないて終わります。

 マイク自身のさまざまな音楽指向を網羅した形にもなっており、エレクトロニクスもギターもオーケストラもポップスもボーカルもすべてが顔を出します。壮大な企画にすべてを詰め込んで、千年を締めくくるとは考えたものです。さすがはマイク・オールドフィールドです。

参照:The Tubular Net

The Millennium Bell / Mike Oldfield (1999 Warner)