もちろんマイク・オールドフィールドは数多くの楽器を弾きこなします。しかし、本人は自分はギタリストであるという自覚があります。色んな楽器と浮気をしたけれども、帰るところはいつでもギター、お前はいつも俺の心を癒してくれる、というのがこのアルバムです。

 前作「チューブラー・ベルズIII」からわずか1年足らずしかたっていません。しかも同時進行で次の「ミレニアム・ベル」プロジェクトが進行しています。ここのところのマイクの活動ペースからすれば、極めて旺盛な創作意欲です。

 ただ、「もうチューブラー・ベルズには飽きた。次にベルが鳴るのは自分の葬式だ」などと吐露するマイクには、こうして少し脇道の逸れる必要があったのでしょう。誰もが予期しなかった形で、その名も「ギター」と題されたギター・アルバムが出来上がりました。

 オリジナルはどうか知りませんが、手元にあるCDでは盤面にギターがたくさん並べられています。恐らくはマイクのギター・コレクションでしょう。ギター愛の発露であるコレクションを眺めていると、イエスのスティーヴ・ハウを思い出しました。彼はギターのことしか考えていない。

 マイクの本作でのこだわりは、すべてをギター由来の音で構築するというものです。使われているのはエレキ・ギターにベース・ギター、ギターとのインターフェイスを持ったシンセ、何だかよく分からないローランドのギター・モデリング・プロセッサーだけの模様です。

 ドラムやタブラの音も聴こえてくるのですけれども、これもギターのようです。例えばドラムはベースの弦を叩いた音を処理しているそうで、タブラもギター由来の模様です。ドラムは全く違和感がありませんが、タブラの方は限りなくタブラだとはいえやや違和感があります。

 それよりもギターがアコースティックに聴こえる方が不思議です。本当にアコギじゃないんでしょうか。それもマイクのこだわりなんでしょうか。いずれにせよ、単純なギター・アルバムにしないところがマイクのマイクたる所以です。なんたって2000回のダビングをする男です。

 本作では全10曲、それぞれが独立している、通常のアルバム仕様となっています。トラッド調の美しいメロディーの曲から、激しいカッティングを聴かせる曲まで、さまざまな調子の曲が並べられていて、いかにもリラックスした作りです。

 ジャケットもデニムのジャケットを着て、恍惚の表情でギターを弾くマイク。どこまでもリラックス・ムードです。マイクのギターはいつも演歌のような艶めかしさがありますが、本作でも基本はゆらゆら揺れる濃いギターがねばりついて得も言われぬ味を醸します。

 クラシック・ギターとは違って、基本的には単線でメロディーを弾いています。足りなければもう一本足す、リズムはドラム・サウンドを加える、といった対応です。そこがロック仕様です。やはりマイクはロック・サイドのギター弾きであることがよく分かります。

 この作品はさほどヒットしたわけではありませんし、彼のキャリアの中でも地味な作品に分類されます。しかし、彼の場合にはこういう小品集があると、みんながほっとします。小品集でこそ輝くのはギターの七色の光。何かと面白いアルバムです。

参照:The Tubular Net

Guitars / Mike Oldfield (1999 Warner)