「チューブラー・ベルズ」はオリジナルから続編まで20年近くかかりましたが、第二弾から第三弾の間はわずか6年です。正直に告白すると、また「チューブラー・ベルズ」かと思いました。このタイトルにすると売れるから安直につけたのではないかとも思いました。

 チューブラー・ベルズこそ使われているものの、女声ボーカルの王道ポップな曲も入っています。それに何よりも、サウンドは打ち込みリズムが目立つ、トランスというかハウスというかそんなダンス・サウンドです。どこがチューブラー・ベルズやねんとまずは突っ込む。

 しかし、この時期、マイクはイビザ島に移住していたと聞いて、「あっ、なーるほど、イビザね」と、すべての疑問が氷解して、マイクとこのアルバムへの印象は一変しました。マイク・オールドフィールドはなんと素直な人なんでしょう。

 この頃のイビザはケヴィン・エアーズが住んでいた昔とは異なり、夏の間はレイブというか何というか、とにかく電子系ダンス音楽が鳴り響くパーティーで有名な若者の島です。もはやレイドバックしたアロハな島ではありません。

 半ば隠居する気で移住したのに、案に相違して一日中若者がパーティーをやっていると、そのうち、ダンス音楽に興味が湧いてくる。そこでマイクが「チューブラー・ベルズ」のテーマをダンス仕様にしてDJにプレイさせてみると、若者はちゃんとダンスを続けていたんだそうです。

 これに気を良くしたマイクは、もともと「チューブラー・ベルズ」25周年を記念して制作しようとしていた本作を、ダンス仕様で作ることを決意します。しかし、そこは昔の人です。全部はまずかろうということで、一部は旧来の曲にして、本作が完成しました。

 結局、売れるから「チューブラー・ベルズ」というのは否定できないのですが、パーティーに参加して浮かれるマイクの姿を思い浮かべると、サウンドには納得できます。何とも言えず明るくて、ウキウキする「チューブラー・ベルズ」です。

 もっとも「チューブラー・ベルズ」とは言え、オリジナルを想起させるのは出だしの「ソース・オブ・シークレッツ」などごく一部です。「マン・イン・ザ・シャドウ」は「クライシス」所収のヒット曲「ムーンライト・シャドウ」のドラム・サウンドを使った、王道の構成を持つポップ・ソングです。

 その他にも「オマドーン」からのサンプリングも使われていますし、恒例の楽器紹介もなしと、「チューブラー・ベルズ」に縛られない自由な構成になっています。もはや「チューブラー・ベルズ」はマイクが気合を入れるためのマジック・ワードなんでしょう。

 ゲストとしてクレジットされているのはボーカリストばかりです。気になったのはヒンディー語で歌うアマー、スペイン・ケルトのガリシア州のバンド、ルアル・ナ・ルブレのロサ・セドロン、「マン・イン・ザ・シャドウ」を歌うカーラ・ディオン、アイルランドのフォーク歌手です。

 この作品も他の名前のアルバムに比べると売れました。英国ではトップ10ヒットとなり、「チューブラー・ベルズ」の威光を示しました。地中海の風の吹く、前を向いた明るいアルバムとなり、イビザ移住は断然吉と出ました。

参照:Tubular Net

Tubular Bells III / Mike Oldfield (1998 Warner)