何だこいつらは、と毛嫌いしていたことを思い出しました。アート・オブ・ノイズを輩出したトレヴァー・ホーンのZTTレコードは、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドをスキャンダラスに売り出していましたから、こちらも一緒くたにしてしまっていました。

 思い返すと何もそんなに嫌わなくてもいいはずですが、アート・オブ・ノイズは正体を隠していましたし、胡散臭いプロモーションがなされていましたから、何だこいつら感は強かった。今思い返すと彼らの炎上商法にまんまと乗せられたわけです。

 アート・オブ・ノイズは、当初ZTTのアーティストという以外に何の情報もありませんでした。やがて、音楽ライターだったポール・モーレイが顔としてメディアに露出しだします。彼がブレインでした。となると、トレヴァーとポールの二人によるユニットかと騒がれます。

 しかし、サウンド作りは他の三人、今やハリウッドの映画音楽で活躍するアン・ダドリーとJJジェクザリック、ゲイリー・ランガンで、いずれもトレヴァーのスタッフ経験がありました。バンド・コンセプトはポール、音作りはこの3人、プロデュースがトレヴァー。こういう分担です。

 バンド名は騒音を音楽に持ち込んだ未来派作曲家ルイジ・ルッソロの論文からとっています。ZTTも同じ未来派にちなんでいますから、一貫しています。このあたりのコンセプト作りはポールの役割です。ジャケット記載の論文「愚鈍の誕生」も彼が書いた模様です。

 ポールは自身を「ピストルズにおけるマルコム・マクラレン」と評していました。そういえばトレヴァー、アン、ゲイリーはマルコムの傑作ソロ「ダック・ロック」の制作スタッフでもありました。あちらの華やかさにこちらが及ばないのはポールにユーモアが欠けているからでしょう。

 本作はアート・オブ・ノイズのデビュー・アルバムです。何だこいつら、ではありましたが、サウンドには驚きました。当時「世界最新のサンプリング技術を駆使し、音楽の常識を次々と塗り替えた」んです。世界初のサンプラー、フェアライトCMIを駆使した音楽です。

 楽器を使っていないという触れ込みでした。「世界が初めて耳にするサンプリング技術を駆使し、様々な『ノイズ』を実験的にコラージュしてポップ音楽に昇華させた」というのですが、まだサンプリングとは何かが良く分かっていない解説なのが微笑ましいです。

 サンプリング技術も生まれたばかりなので、全体に機械臭い音がしますけれども、アート・オブ・ノイズの意気は軒昂です。びしびしなるビートに始まり、サウンドでサウンドを作り上げる妙味を楽しんでいるのがよく分かります。機械臭さにさえ慣れれば素敵なサウンドです。

 アルバムの中で際立っているのが、3枚目のシングルともなった「モーメンツ・イン・ラヴ」です。マドンナが結婚式のBGMに使ったという、意表を突いた柔らかな楽曲です。確かに結婚式にも向いています。アン・ダドリーの力が目立つ一曲です。

 彼らは本作の後、音作りの三人がクーデターを起こします。トレヴァーのレーベルを離れ、ポールとも袂を分かって新生アート・オブ・ノイズとなり、さらなる活躍を遂げます。何だこいつは、の対象はきっと音楽評論家ポール・モーレイだけですね。

Who's Afraid Of ? / The Art Of Noise (1984 ZTT)