マイク・オールドフィールドの「チューブラーベルズII」に続くアルバムです。もうベテランですから大成功に左右されることなく、2年の時を隔てて、アーサーCクラークの小説「遥かなる地球の歌」を題材にした一大叙事詩を作り上げました。

 なんでも所属レーベル、ワーナーの社長の示唆を受けて始まったプロジェクトだそうです。、前作中の「センティネル」は「2001年宇宙の旅」の元になった短編ですから素地はありましたが、リチャード・ブランソンの懇請は長らく無視していたことを考えると面白いです。

 SF界の巨匠クラークの作品は地球の未来を深く見つめるものが多いです。私は「地球幼年期の終わり」にいたく感動しました。「遥かなる地球の歌」は残念ながら読んでいないのですが、梗概を読むだけでも、傑作っぽい感じがします。無責任ですが。

 クラークは、小説の最後が音楽コンサートとなっていることもあって、マイクからプロジェクトの希望が示された時は嬉しかったと書いています。マイクが手掛けた「キリング・フィールズ」のサントラがもともと好きだったとも。そして、本作の出来上がりには大変満足しています。

 マイクはすでにサントラを手掛けたことがありますから、元々あるストーリーをベースに音楽を作り上げることにはまるで違和感がなさそうです。余計なことを考えなくても済むとでも言わんばかりの落ち着きぶりが感じられます。

 全部で17のパートに分かれていますが、約1時間ノンストップの叙事詩となっています。その冒頭を飾るのは旧約聖書の創世記の朗読です。これは、月の軌道を巡っているアポロ8号の船内で宇宙飛行士のビル・アンダースが朗読した音源を用いています。

 もうここからして強引に宇宙に連れて行かれます。さらにフィンランドの少数民族サーミ人のミュージシャンであるニルス=アスラク・ヴァルケアパーによるサーミの伝統的な歌唱も使われています。「地球の祈り」がそれです。これがより宇宙を感じさせます。

 ヴァルケアパーの歌唱は、エニグマの「リターン・トゥ・イノセンス」を思わせると評判です。エニグマのマイケル・クレトゥはマイクの「アイランド」に参加していましたから、二人は音楽的嗜好に似たところがあるのでしょう。台湾とフィンランド、人類は深いところでつながっています。

 シンセによるドローンが宇宙の音のようですし、イルカの声や波の音など地球の自然音もSEとして使われており、とても分かり易い標題音楽になっています。サントラではありませんから映像はありませんけれども、その分、音楽ですべてを表そうという心意気を感じます。

 ただし、このアルバムが発表された当時はエンハンストCDとして映像をカップリングすることが流行りました。マイクも本作で試みており、何種類か発売されています。正面から小説にインスパイヤされた作品ですから、MVはとても作りにくかったことでしょう。

 艶めかしいギターが活躍し、ちょっとチューブラー・ベルズが入り、スペーシーなサウンド、重いリズム、民族音楽を感じさせるメロディーが乗る。マイクの魅力の満艦飾。ニュー・エイジに分類されることが多いですが、プログレを忘れてはいけません。そっちの魅力も満載です。

参照:Tubular Net

The Song Of Distant Earth / Mike Oldfield (1994 Warner)