この作品はほぼリアル・タイムで日本でも発売されました。確か「舟歌」という邦題だったと思うんですが、私の思い違いでしょうか。気になっているのですが、ネットでも確かめられず、もんもんとしています。舟歌的要素は皆無なんですけれども。

 ジャー・ウォブルはPILを脱退した直後に音楽ライターの紹介でホルガー・シューカイと出会います。何とか二人を会わせたいと思う心情は理解できます。ホルガーのカンはPILの直系と言ってもよい先輩ですから。しかもぶんぶんベース同士。

 ウォブルに言わせれば「ごく短いやりとり」ののち、この二人にカンのメトロノーム・ドラマーだったヤキ・リーベツァイトを加えたトリオでEPを制作しました。ただ、その前にこの三人はホルガーの前作ソロ・アルバムでも共演しています。

 この作品はそのEPに同じ編成で2曲長尺の曲を加えてLPに仕立てたものです。発売はヴァージン・レコードから、ウォブルともカンとも馴染みが深いですし、この頃には世界的なレーベルでしたから、文句なく日本盤も発売されました。ヴァージンさまさまです。

 追加された2曲にはタイトルの後にRPS、ラジオ・ピクチャー・シリーズと追加されています。それぞれ7番と8番です。この2曲は作曲クレジットが3人になっており、3人の即興演奏をエディットしたものであろうと思われます。

 ホルガーはぶんぶんと鳴らすベーシストでしたけれども、ここではウォブルにベースを譲り、上物に専念しています。ヤキのドラムとウォブルのベースを基盤に、ラジオから流れてくる音源で絵を描くように曲を作っています。この2曲がアルバムを象徴しています。

 メトロノームのようだと評されたパッツンパッツンのドラムと、分厚い雲のような反復するベースラインは絶好のキャンバスを提供しています。このリズムにはまるともう抜けられない。ホルガーおじさんのお絵かきを呆然と眺めるのみです。

 EPの方はジョイ・ディヴィジョンのイアン・カーチスに捧げられていました。そういわれてみれば、ジョイ・ディヴィジョンの重いダブ的なリズムと通底するものがあるような気がします。少なくともジャー・ウォブルはその気満々だったのでしょう。

 1曲目の「ハウ・マッチ・アー・ゼイ」は日本のTVCMに使用されました。少しPILを思わせる曲ですが、圧倒的に軽やかなダブ調ディスコです。ホルガーの浮遊するようなサウンド、ウォブルの反復ベース、ヤキのジャストなドラム。どれも素晴らしいです。

 2曲目はウォブルのお経のようなボーカルとともにずるずると展開します。まさにサウンド・コラージュの真価が発揮されています。アルバム全体が強靭でありかつ軽やかなサウンドによるコラージュだと言えます。いつまでも聴いていたくなる名盤です。

 この作品はあちこちのクラブでプレイされたそうです。私には当時このサウンドで踊るという発想はありませんでした。そのことに気付いていれば、ハウスやテクノにもっと早くから親しむことができたのに、と自らの硬直した考えを残念に思います。

Full Circle / Holger Czukay, Jah Wobble, Jaki Liebezeit (1982 Virgin)