不朽の名作「チューブラー・ベルズ」の続編登場は一大事件でした。イギリスでは大きなニュースとして取り上げられ、それまで低迷気味だったマイク・オールドフィールドはほぼ20年ぶりに全英1位の座を獲得することに成功しました。

 この時期、英国経済は低迷しており、このアルバムが発表された翌月にはいわゆるポンド危機が発生しました。ポンドを売り浴びせられた英国は欧州為替相場メカニズムを脱退して、変動相場制に移行せざるを得ませんでした。最悪の時期です。

 英国国民が自信を喪失していた時期に、「チューブラー・ベルズ」の続編登場です。無名の若者がたった一人で作り上げた傑作、リチャード・ブランソンの輝かしい成功の起点となった名作。この国民的作品の復活は英国民のプライドを呼び覚まさせたのでした。

 「チューブラー・ベルズ」の続編はオリジナルが大成功した直後からリチャード・ブランソンに希望されていたものです。しかし、マイクはこれに乗らないまま時はすぎ、前作「アマロック」を続編としたいというブランソンの期待もかなえられることはありませんでした。

 皮肉なことに、続編が制作されたのは、レーベルをヴァージンからワーナーに変更した直後でした。レーベル移籍に伴って仕切り直しの一枚が「チューブラー・ベルズII」というのも一貫した態度のように思います。頑固なマイクならではです。

 本作品は、オリジナル版とジャケットも構成も大変良く似ています。全14曲に分かれていますけれども、全部つながっています。ただし、オリジナル通りちょうど半分でパートが分かれます。レコード盤をひっくり返すようにも聴けるわけで、そこまで手が込んでいます。

 冒頭の「センティネル」は、エクソシストに使われて有名になったオリジナルの旋律を思わせます。再構築されてまるで別物のはずなんですが、それでも「チューブラー・ベルズ」であると分かるようになっています。このミニマルな反復されるフレーズが本作のテーマです。

 このテーマが全編にわたって鳴っています。いや、鳴っていないパートも多いのですが、そんな時でも聴いている方で勝手に補ってしまっている。そんなイメージです。そんな聴き方になってしまうわけですから、アルバムの統一感は半端ないです。

 お約束の楽器紹介ももちろんあります。「ザ・ベルズ」がそれです。MCを務めるのはハリー・ポッターでスネイプ先生を演じて強烈な印象を残したアラン・リックマンです。時代は先に進んだので、♪デジタル・サウンド・プロセッサー♪なんていうのがあるのもご愛嬌です。

 プロデューサーには本人とオリジナルのトム・ニューマンに加えて、トレヴァー・ホーンが起用されました。トレヴァーはほとんど何もしていないと言っていますが、彼の参加によって全体のトーンがずいぶん明るくなったと言われています。

 大たい続編というものにはろくなものがありませんが、さすがにこの続編は力が入っているのみならず、素晴らしい作品になっています。オリジナル・メロディーを追い出すのに時間がかかるのですが、それさえ乗り越えられれば、本作品にのめり込んでいくことができます。

Tubular Bells II / Mike Oldfield (1992 Warner)