最初に言い訳をしておきます。私はセントチヒロ・チッチも大好きです。チッチ版とアイナ・ジ・エンド版の間で揺れたのですが、今回はたまたまチッチ・バージョンが売り切れていたという事情ですんなりアイナ版を入手することとなりました。さすがに二枚は買わない。

 彼女たちの所属するプロダクションWACKでは、AKBグループの向こうを張って、総選挙が行われました。その結果、1位になったのがセントチヒロ・チッチ、2位がアイナ・ジ・エンドでした。本作はそのご褒美とされていた二人のソロ・デビュー作です。

 アルバムを作るのかと思いきや、それぞれ1曲ずつで2曲を収めたCDシングルとなりました。3位のアユニDは別企画でアルバムを作っているので、何となく釈然としませんが、そのもやもやを吹き飛ばす充実の内容です。

 まずセントチヒロ・チッチはかねてより最も影響を受けたと公言している峯田和伸のゴーイング・ステディ及び銀杏ボーイズの「夜王子と月の姫」をカバーしました。BiSHの「JAM」でも峯田に会いに行ったチッチですから、納得の選曲です。

 チッチによれば、この曲は「私が高校生の時に孤独を救ってくれた歌だったんですよ」ということです。松隈ケンタ&スクランブルズの手を離れて、選曲、編曲、衣装、MVすべてチッチがやりたいようにやった「私の大好きが詰まった一曲」です。

 演奏しているのはリーガルリリー、2014年結成の話題の女性3人組です。大きな広がりを感じさせる味わい深いギター・ロックに、BiSHを支えるチッチの美しいボーカルが絡む。いつもより儚げな風情が、最後の方で爆発するドラマチックな一曲です。

 一方、アイナ・ジ・エンドは「18歳のときに人生初めて作った」曲を歌いました。編曲は今やJポップを代表するプロデューサー亀田誠治です。亀田と言えば椎名林檎。アイナは亀田のサポートで椎名林檎の「本能」を歌い、亀田をして新世代と唸らせたことがありました。

 アイナはモンド・グロッソとの共演などがあって、松隈離れは初めてではありませんが、こうして自らのイニシアチブを発揮するのは格別でしょう。「自分で言うのもなんだけど、『きえないで』に命があったらいいのにって思うくらい好きです」。

 アイナと言えばシャウトの魅力なのですが、この曲は後半に一部出てくるのみです。語りかけるように歌うアイナはこれまでとは違う魅力が溢れています。耳元で囁かれているようで、たまりません。♪女の子にしてくれたね♪なんて。

 チッチの曲は、夜王子の名前がカムパネルラですから、銀河鉄道の夜のイメージを引っ張ってくる雄大な曲、アイナの曲は徹底して女の子の心情を描いた地上密着型のラヴソング。二人の曲は対照的です。やっぱりそれぞれアルバムを聴きたいと思ってしまいます。

 アイドル・グループのリーダー格二人それぞれにセルフ・プロデュースをさせ、それがここまで高いクォリティーの結果を出す。楽器を持たないパンク・バンドの称号はだてではありません。パンクから出発した幾多のアーティストの成功が重なってみえます。

参照:CDジャーナル2018年10月号(南波一海)

Yoruouji To Tsuki No Hime / Kienaide // Sentochihiro Chicchi / Aina The End (2018 Avex Trax)