ソロに復帰してからわずか1年後に早くも2作目のソロ・アルバムが発表されました。通算すると4作目です。今回はジャケットに顔が半分しか写っていません。それでも十分にカッコいいですし、男らしくなったもんだと他人事ながら嬉しく思います。

 本作は前作の延長上にあるのかと思いきや、前作の鍵を握っていたトッド・ラングレンとのコラボは解消されています。バックを務めるミュージシャンはベース、ドラム、キーボードの3人のみ。メンバーはまるで重なっていませんが、形の上ではむしろデリンジャーに近い。

 しかし、ギターよりもむしろキーボードが目立つメローな曲が目立ったことから、多くのファンの失望をかったと言われています。その意味ではデリンジャーよりも、トッド・プロデュースの前作にやっぱり近い。それをリック単独でものしたという作品です。

 トッドはリックのギターを前面にフィーチャーしましたが、リックはそうはしない。「自分は聴衆の前に出ていってライブをすることを楽しんでいる。しかし、同時にレコーディングも好きだ。そして、最近はより曲作りに力を入れてきたんだ」と語るリック。

 本作では持ち味だったはじけるようなストレートなロックンロールではなく、どの曲もロックを基本としつつも少し屈託のあるひねりの効いたタッチになっています。そこがリックの曲作りの妙味ということなんでしょう。これまでのリックのイメージからは少し離れます。

 しかし、もちろんギターも忘れたわけではありません。本作には聴衆の渇きを癒すかのように、ギター全開のライブ録音が2曲含まれています。まずはソロ・デビュー作に含まれていた「ジャンプ、ジャンプ、ジャンプ」。ブルース・フィーリング溢れるギターです。

 そして、ニール・ヤングの傑作「マイ・マイ・ヘイ・ヘイ」です。これまた意外と泥臭いギターをリックが弾きまくっています。ライブ・アルバムを作ったら良かったのに、と思った人も多い事でしょう。リックがあちこちから引っ張りだこなのもよく分かる素敵なギターです。

 サポーティング・メンバーにはさほど有名な人はいません。後にブルー・オイスター・カルトに加入するジミー・ウィルコックスくらいなものです。しかし、いずれも的確にリックをサポートしており、このバンドはなかなか力強くて将来性がありそうでした。

 ところが、やはり本作も商業的には惨敗に近く、レコード会社からは、「持ち前のロックンロールに専念してさえいれば、もっと成功できたのに」と言われてしまいます。レコード会社はリックのやり方に不満たらたらだったようです。

 しかし、リックはぶれません。幅を広げたことによって、他のバンドよりも長く活動することができたと振り返っています。確かにソロとして派手なチャート・アクションを繰り広げた人ではありませんが、こののちさまざまにスタイルを変えて、2018年現在もまだ現役バリバリです。

 今になってこの作品を振り返ると、初期の魅力こそ失われたものの、アメリカン・ロックにしっかりと根差したどっしりした凄味が感じられます。ここからデリンジャーの新たな旅が始まったと考えてもよさそうです。容姿に似合わず硬派なアーティストです。

Face To Face / Rick Derringer (1980 Blue Sky)