ストレートなロックです。私の世代だと、「正統派」という言葉を使いたくなってしまいます。良し悪しは別として、1960年代や70年代のロックこそが「正しい」という思いが心のどこかに宿っていますから、こういうロックを聴くと何だか嬉しくなります。

 グリム・スパンキーは「ロック、ブルースを基調にしながらも、新しい時代を感じさせるサウンドを鳴らす男女二人組ロックユニット」と公式サイトでは紹介されています。ボーカルの松尾レミとギターの亀本寛貴からなるユニットです。

 男女二人の編成で、正統派ロックを演奏すると言えば、真っ先に思い浮かぶのはホワイト・ストライプスです。楽器編成はまるで違いますが、その連れてくる雰囲気には似たものを感じます。実際、彼らもホワイト・ストライプスがお気に入りのようですし。

 しかし、二人は兄弟ではありませんし、夫婦でもありません。高校の先輩後輩という何とも日本的な関係です。長野県の高校の学園祭のために松尾が作ったのがグリム・スパンキーで、後に先輩の亀本が加入したということです。

 彼らは若手ロッカーの登竜門となっている「閃光ライオッツ」の2009年ファイナリストになり、そこで俄然注目を集めてデビュー、この作品はフル・アルバムとしては3枚目にあたります。ジャケットを見れば一目瞭然、サイケデリック全開です。

 「『もう名刺代わりの一枚はいい』って思って」、「私的には本当にやりたかったことをやりたいままに、ナチュラルに表現でき」たと松尾は語ります。亀本も「『サイケデリックな作品がもともとやりたい』という話はしていたん」だと言っています。

 しかし、彼らの考える「サイケ」は果たして私の考える「サイケ」と同じなのかどうなのか心もとないですが、出てきた作品は大変結構です。彼らが心配したように「マニアックな世界」にはなっていませんし、「古臭い」こともありません。

 松尾は、「60~70’sの楽曲も好きだけど、別にそれだけが好きなんじゃなくて、そうなりたいわけでもない」と言います。このアルバムを聴いていると、その頃のロックの雰囲気は濃厚なのですが、明らかに現在進行形であることがよく分かります。

 こだわりが強すぎるわけでもなく、サウンドにも現代的な要素は満載です。それに日本語のメロディーへの乗せ方がとても自然でうまい。日本語ロックは可能かと論争していたあの時代は何だったんだろうと思います。

 たとえば「吹き抜く風のように」では、♪宗教や戦争も僕にはないのさ♪というちょっと間違うと引っ掛かってしまうフレーズも見事に処理しています。祖父の無宗教でのお葬式に出て、自分の内に宗教があったことに驚いた経験の裏打ちもあるため上っ面ではないですし。

 松尾のハスキーな声と亀本のサイケなギターのコンビに、サポートでドラムとベースを入れた程度の編成で、サイケデリック・ロックの現在形が軽やかに提示されています。このまますくすくと成長してほしいものです。

参照:ビルボード・ジャパン インタビュー

Bizarre Carnival / Glim Spanky (2017 Virgin)