リック・デリンジャーはソロ・アルバムを2枚発表した後、自身のバンド、デリンジャーを結成しました。4人組のデリンジャーはスタジオ・アルバム3作とライヴ・アルバムを残しています。米国有数のハード・ロック・バンドとしてそこそこ順調な活動でした。

 しかし、リックはデリンジャーに終止符をうち、ソロ活動に復帰します。ソロ復帰後最初のアルバムがこの「ギターズ・アンド・ウィメン」です。大たいバンド名がデリンジャーでしたから、何が違うのか、世の中の人々は「混乱したようだ」とリック自身が話しています。

 人騒がせなことです。ただ、このアルバムはこれまでの作品とは一線を画していますから、本人が言うほど混乱したとも思えません。混乱したとすれば、それはトッド・ラングレンのユートピアが別名で作ったアルバムではないかという噂の方でしょう。

 そうなんです。この作品はトッド・ラングレンが全面的にかかわっているんです。プロデュースを共同で行っている他、ユートピアからカシム・サルトンとロジャー・パウエルが参加しています。プロデュース技に長けているはずのリックがトッドと組む。面白いことです。

 最初の曲「サムシング・ウォーム」から驚きます。まるでユートピアの作品のようです。リックのボーカルも心なしかトッドに寄せているようにも聴こえます。続く「ギターズ・アンド・ウィメン」でますますその確信を深めていきます。ですから一旦そのことに納得する必要があります。

 それはそういうものとしてアルバムを楽しむことにすると、このアルバムの真価が現れてくることになります。リックの持ち味であるポップなハード・ロックが、トッド自身も参加した分厚いコーラスに象徴されるトッド節を得て、一段と輝いていることがわかります。

 もちろんそこは好悪が分かれるところでしょう。上手い具合に前作にも収録されていた「ドント・エヴァー・セイ・グッドバイ」が本作で再録されています。振り返るとネイキッドな前作バージョンと、プログレ風味のあるコーラスをまとったゴージャスな本作。ここは好みです。

 とはいえ、面白いことに、再録バージョンの方がギターが大活躍しています。トッドはこれまで以上にリックのギターを際立たせることに成功しています。思えば、前2作にはジョニー・ウィンターが参加していたのでした。いいところでジョニー。本作は基本リック一人です。

 リック・デリンジャーはギター小僧なんです。あのデュアン・オールマンがリックのギターに影響を受けたとリックに語ったほどのギター野郎なんです。これは大きな勲章で、リックは今でもその言葉を大切にして、公式サイトにも信仰告白の中にとどめています。

 リック自身は本作について、「このアルバムでは、歌詞はより成熟しているし、曲も少し成熟した」と何とも味わい深い発言をしています。なんといいますか、自信作ではあるけれども、ファンの受け止め方を気にしているような発言です。

 この作品はまるで売れませんでしたけれども、リックを活かすという意味ではトッドの良い面が出ました。キラキラしていた70年代半ばから、ちょっぴり大人になって重厚感が出てきたUSハードロックの雄、リック・デリンジャーです。案外素敵なアルバムです。

Guitars And Women / Rick Derringer (1979 Blue Sky)