村治佳織のスペイン・デビュー作品です。ロドリーゴ作品集「パストラル」を発表した後、ロドリーゴ本人と会った佳織さんは、まずはロドリーゴの代表作「アランフェス協奏曲」を発表し、続く新たなロドリーゴ作品集でスペイン・デビューを果たしました。

 「このCDはホアキン・ロドリーゴのギターとオーケストラのための作品の中で最も知られている『ある貴紳のための幻想曲』をロドリーゴ室内管弦楽団と共演した、若手ギタリスト村治佳織のスペインデビュー成功の証しです」。

 誰あろう、ホアキン・ロドリーゴの実の娘であるセシリア・ロドリーゴが本作に寄せた一文からです。村治佳織のマエストロ・ロドリーゴへの思いは、ロドリーゴ一家に認められるに至りました。セシリアは「最高の満足感をここで伝えたいと思います」と書いています。

 アルバムの前半は2001年7月にスペインでライヴ録音された「ある貴紳のための幻想曲」です。ロドリーゴによるギター協奏曲としては、例のアランフェスに続く第二作になります。1994年に結成されたロドリーゴ室内管弦楽団との共演が叶いました。

 ギターの巨匠セゴビアの頼みに応じて完成された曲で、貴紳はセゴビアのことを指します。と同時に17世紀のバロック・ギター奏者ガスパール・サンスが仕えていたスペインの貴公子も指します。この曲はサンスの曲からテーマを拝借して仕上げた作品なんだそうです。

 スペインらしく明るくて晴れやかで暖かなサウンドがいいです。ギターの音と管弦楽団の音が絶妙にブレンドされていて、素晴らしい。20分強の息もつかせぬ展開はとにかく楽しいです。こんな曲もあるのかとロドリーゴのイメージが変わりました。

 後半はギターのソロです。こちらも2002年2月のスペイン録音です。最初の曲は「3つのスペイン風小品」より「ファンダンゴ」です。この曲は「パストラル」にも収録されていましたが、本人のたっての希望で再録音されました。

 佳織さんが初めてスペインに来たのが1999年です。スペインを肌で知る前と後、ロドリーゴと会う前と後。解説の濱田滋郎氏は『この舞曲の真髄を(私なりに)つかむことができた』という自信と喜びとが溢れて」いると書いています。

 聴き比べてみるとおっしゃる通りです。こちらは自信に満ち溢れていて、迷いが何もない力強い演奏です。もはやスペイン人と化した佳織さんの心意気が凄い。続く7曲もそれこそ土性骨の座った見事な演奏です。これまでも凄かったですが、一段と凄い。

 1999年に初めて訪れて以降、スペインを頻繁に訪問することとなった佳織さんは、すっかりスペイン語も上手になり、セビリャーナスなる国民的な踊りも踊れるようになったそうで、しっかりとスペインをわがものとしています。

 アルバム発表後には、ロドリーゴ生誕100年を記念してロドリーゴ管弦楽団が初来日を果たし、日本で村治佳織との共演が実現しています。もはやスペイン娘。CD付属のミニ写真集は「ハッピー・タイム」と題されたスペインの想い出。想いのあふれる素晴らしい作品です。

Resplandor De La Guitarra / Kaori Muraji (2002 ビクター)