ヴァン・ダイク・パークスによる「東京ローズ」は1989年7月に発表されました。1989年です。日本はバブル絶頂期にありました。アメリカにとっても日本は脅威にうつるほど調子が良かった時期です。それを心得てからこの作品に向かう必要があります。

 パークスはデビュー作以来一貫してアメリカに向き合ってきました。その彼が今度は日本とアメリカの関係を題材に選んで、やっぱりアメリカに向き合うことになりました。前年に実現した初の来日公演を踏まえてのことだろうと思います。

 しかし、ジャケットからしていきなりシニカルです。パークスはグリーンピースにも入れ込んでいましたから意外ではありませんけれども、日本が世界から非難されている捕鯨をジャケットのモチーフにしています。これを持ち出されるとさすがに西洋の横暴を感じざるを得ません。

 当時の日本の大きな存在感の裏返しでもありましょう。そのことはアルバムの中身にもいろいろと出てきます。そもそも「トレイド・ウォー」、すなわち貿易戦争なんていう題名の曲まであるくらいです。バブルの絶頂で大暴れしていた日本でした。

 アルバムはまず「アメリカ」で始まります。なぜか英国国歌のメロディーが下敷きにされています。この曲には箏や尺八が使われています。それぞれ喜多嶋修と吉沢政和によるちゃんとした演奏です。さすがはパークス、決して手を抜きません。

 次いで表題曲「東京ローズ」。戦争中のプロパガンダ放送のアナウンサーに付けられた名前です。いきなり六本木が出てきます。パールとハーバーが絶妙に歌詞にならんでいます。「ヤンキー・ゴー・ホーム」はペリー提督の黒船来航のこと。

 「カウボーイ」はハワイのカウボーイのことでゼロ戦が飛んできた過去と、ゴルフ場を占拠するジャパニーズが出てきます。「マンザナール」は太平洋戦争中の日系人強制収容所です。深刻な話を料理する手腕はさすがです。

 「カリプソ」は日本とあまり関係ない内容なのですが、ここで飯島真理がボーカルで参加しています。島の娘をたぶらかすあまり愉快な歌詞ではありません。「白菊」には日産の工場が出てきて、「トレード・ウォー」に突入します。ここらはパークスの真骨頂です。

 「アウト・オブ・ラヴ」で愛を歌い、最後の「ワン・ホーム・ラン」では日本語による歌唱で締めます。まるで日本を題材にしたミュージカルのような作品です。ストリングスを多用し、かつオリエンタルな響きを満載した音楽絵巻が繰り広げられます。

 とことんアメリカを感じます。アメリカのディープなエンターテインメントです。こちらの方が知的ではありますが、バリー・マニロウを思い浮かべました。アメリカなんです。途方に暮れてしまう、決して分かり合えないアメリカ。

 とはいえ、サウンドはさすがにそのテクスチャーが素晴らしいです。隅々まで気が配られて、肌触りがとても良い。自分がミュージシャンだったら、とことん探求したくなるのではないかと思います。寡作のヴァン・ダイク・パークス、さすがに傑作揃いです。

Tokyo Rose / Van Dyke Parks (1989 Warner Bos.)