いくらなんでも、いくらなんでも、このジャケットはご勘弁願います。と懇願したくなるほどの恐ろしいジャケットです。ここまでリック・デリンジャー本人の美少年ぶりを臆面もなくさらすとは。平静な気持ちで正視することが困難です。

 始末に悪いことに美しすぎる。下手をすると惚れてしまいそうです。ジャケット裏面の汗にまみれてギターを弾きながら歌っている姿ならば、いいんですけれども、このジャケットはいくらなんでも、いくらなんでも。しつこく繰り返してしまいました。

 リック・デリンジャーの2作目のソロ・アルバムはチャート・アクションこそ残念なものでしたけれども、少なくとも日本では往年のロック・ファンの心に深く刻まれるアルバムになりました。復刻CD化リクエストが多数寄せられたそうです。私も待ってました。

 前作から2年が経過していますけれども、リック・デリンジャーはその間、エドガー・ウィンター・グループでの活動やトッド・ラングレンの作品への参加などで多忙を極めていた模様です。あの音にうるさいスティーリー・ダンにも貢献しています。

 忙しい時こそ、充実した作品ができるものです。ゲストも呼びやすいですし。本作での大物は、まずはエドガーとジョニーのウィンター兄弟。ジョニーはスライド・ギターでの参加です。「ヒー・ニーズ・サム・アンサーズ」ではスライドばりばりです。

 そしてニューヨーク・ドールズのデヴィッド・ヨハンセンがエレクトリック・ハーモニカで参加、なによりも驚くのはジャズ界からチック・コリアが参加していることです。プレイズ・ムーグと書かれています。デリンジャーの顔の広さが伺えます。

 中心になっているのはトッド・ラングレン人脈からドラムのジョン・シオモス、ベースのジョン・シーグラーです。ここにエドガー・ウィンターを加えた4人組です。ここから、生きのいいポップなアメリカン・ロックががんがんでてきます。

 本作では、デリンジャーがマッコイズに在籍していた17歳の時に歌った「ハング・オン・スルーピー」を再録しています。全米1位に輝いた名曲を、ここではレゲエ風味満載で披露しています。アルバム中毛色が変わっていていいアクセントになっています。

 カバー曲はもう一曲、ルーファス・トーマスの「ウォーキン・ザ・ドッグ」です。これはまた若々しくてカッコいいカバーです。マッコイズはストーンズの全米ツアーの前座を務めており、デリンジャーはストーンズから多くを学んだと言っています。それを偲ばせるカバーです。

 本作からは「ハング・オン・スルーピー」がシングル・カットされました。私としては、カップリングとなった「スカイスクレイパー・ブルース」が気になります。アルバムでは最後に収められたこの曲、大勢でわいわいやるブルースで、ラフな感じがとてもいいです。

 この作品は残念ながらトップ100にも入りませんでした。この辺りは謎だとしかいいようがありません。1970年代半ばのアメリカン・ロックの底力はこういう作品にこそ表れていると思います。ぴちぴちした心浮き立つロックン・ロールです。

Spring Fever / Rick Derringer (1975 Blue Sky)