インドの古典音楽は北インドのヒンドスタニと南インドのカルナティックに分けられます。北はシタール、南はヴィーナ。さらには北はタブラ、南はムリダンガムなど楽器も違いますし、南はどちらかというとボーカル中心だったりします。

 カルナトリークスはその名が示唆する通り、カルナティック音楽と親和性の高いバンドです。カルナタカ州の方かと思いましたが、カルナトリークスそのものであるギタリストのジョン・アンソニーはケララ州コチの人ですから、やはりここは音楽の方です。

 アンソニーは18歳の時にケララ州の州都であるトリヴァンドラム、今は改名してティルヴァナンタプラムにギターを学ぶためにやってきます。インドでは有名なタランガニサリ音楽学校で学んだ彼は、やがてその名を轟かすロッカーになりました。かなり間を端折った話ですが。

 アンソニー自身はカルナティック音楽の訓練を受けた訳でもなく、純粋な古典音楽奏者として活動したことはありません。彼は自身の経験と身についたハーモニーを使うことで、自然にカルナティックとブルース、ジャズのフュージョンとなりました。だからカルナトリークス。

 このアルバムはカルナトリークスの最初のアルバムで、アンソニーに加えて、3人のミュージシャンが参加しています。ファイヤズ・アーメド・カーンが演奏するのはインドの伝統的な弦楽器サーランギ、レックス・ヴィジャヤンはギターとベース、ジョン・ヴァーキーは声です。

 ヴィジャヤンとヴァーキーはプログラミングも担当しています。インドの音楽といえばパーカッションが特徴的ですが、ここでは打ち込みとなっていて、そこにインドらしさは希薄です。むしろ、メロディーやハーモニーにインド色が濃いです。

 この作品のテーマは「夜明けから夕暮れまでの旅、人と自然の対話、既知と未知の架け橋」です。収められた4曲はそれらしい曲名がついているわけではありませんが、サウンドでもって十分にテーマを表現しています。

 4曲のうち2曲は、200年近く前のカルナティック音楽の有名な作曲家ティヤガラジャの曲をアンソニーがアレンジした曲です。残り2曲はアンソニーが作った曲なのですが、言われてみないと分かりません。持ち込まれたカルナティック感覚は万全です。

 ゆったりとしたリズムに乗せて、アンソニーのギターがこれまたゆったりとした音を奏でていく。しかし、この心地好さが自然との対話であり、未知の世界へと誘っていく、そんな方向で頭が冴えてきます。インド音楽史上最上のコンセプト・アルバムと言われる所以です。

 この作品はインドのチャートで2週連続1位を獲得しました。面白いことに「ニュー・エイジ/ワールド・ミュージック」のカテゴリーです。自国の音楽なのにワールドとは何事かと思いますが、インドの音楽界ではニッチな存在だということを表していると言えます。

 ところで、アンソニーは、ボパール化学工場事件の被害者救済のためのノー・モア・ボパール・コンサートで名を上げます。彼もインドの音楽家の多くと同様に映画産業で活動していましたが、そのライブをきっかけに覚悟してニッチな世界に飛び込んでいったということです。

Namaste / Karnatriix (2008 India Beat)