英国のパンク/ニュー・ウェイブ期のバンドの中でもその存在感が群を抜いていたスロッビング・グリッスルは1981年に一旦解散しました。そこから彼らの伝説が始まったという人もいます。結局1975年にバンドを結成してからわずか6年の活動期間でした。

 グリッスルは1981年5月29日にサンフランシスコでライブを行いました。この時のツアーは彼らとして初めてのアメリカでのライブでしたが、結局、このサンフランシスコでのライブが最後のライブになってしまいました。ジャケットにある通り、最後のライブ・パフォーマンスです。

 このパフォーマンスは録音されており、英国のフェティッシュ・レコードから発売されました。このリリースに続いて、「今回のミッションは終了した」との声明が出され、第一期スロッビング・グリッスルは終了しました。第二期は2004年ですから、22年後です。

 米国に向かう直前、メンバーの一人クリス・カーターはツアー後にバンドから脱退することを表明していました。パートナーとなっていたもう一人のメンバー、コージー・ファニ・トゥッティも追随することが明らかでしたから、バンドの解散は決まっていたようなものです。

 しかし、こうしたバンド内事情に関わらず、このライブは素晴らしいものでした。コージーは、「サンフランシスコ公演はわたしのいちばん好きなTGギグになった」と語っています。「あれはふさわしいエンディングだった」とも。お騒がせ度は低いですが、充実のギグでした。

 「わたしたち4人を最初にひとつにしたエネルギーとわたしたちを引き裂いた生々しい傷の双方が真っ向からぶつかり合い、TGをとんでもないパワーでみなぎらせていた」のです。確かに、サウンドは首尾一貫していて、強度の高い演奏が繰り広げられています。

 このライブは映像も残されています。普通の格好をした4人があまり動くこともなく、むしろ淡々と演奏しています。決してこけおどしで売るバンドではないことが良く分かります。わざわざそんなことをしなくても、コージーは美しいし、四人の佇まいには凄味が漂っています。

 収録曲にはサウンド・コラージュもあれば、インダストリアル・ビートも出てきます。全体にモノクロの電子サウンドと冷徹なボーカルが溢れるTG節全開です。そのビートなどは何の変哲もないのですが、それをここまで魅力的に聴かせるのはTGの美意識があってこそ。

 ただし、音質はまるでよくありません。客席でカセットに録音されたかのような音です。たとえばヴェルヴェット・アンダーグラウンドのマクシスでのライブなど、音質の悪いライブ盤は珍しいわけではありません。生々しくて好きという人も多いでしょう。

 歌ものの場合には脳内で補完して楽しめるのですが、TGの場合はそういうわけにはいかない。一期一会、その時々で一回性の切っ先鋭いサウンドなので、音質が悪いと十分に伝わらない。映像があってもだめ。その場にいたかったなとの思いが募るのみ。

 このライブは特にそう強く思います。その場に居合わせた人はどんなに興奮したことでしょう。TG最後の輝きを一身に浴びて、パワーが漲ったことだろうと羨ましくてしょうがありません。TGはやはり特異なグループでした。そのサウンドは本当に美しかった。

Mission Of Dead Souls / Throbbing Gristle (1981 Fetish)