スロッビング・グリッスル最後のスタジオ作品です。グループが1981年に解散した後、レコードとして発表になったために、主要4作品には数えられていませんが、まぎれもなくTGがスタジオで制作した作品ですから、ファンにとっては重要な作品です。

 制作に至った経緯ですが、まずイタリアの国営放送局、イタリア放送協会(RAI)が「ジャーニー・スルー・ア・ボディ」をテーマとする音響を制作するためにコージー・ファニ・トゥッティに白羽の矢を立てたことに始まります。御大ロバート・ワイアットの推薦だそうです。

 コージーはやがて他の3人にも声を掛け、結局、TGのプロジェクトになりました。サウンドはRAIのローマにあるスタジオにて1981年3月に録音され、ちゃんと放送もされたそうです。日本で言えばNHK、そこがこんな作品を放送したというのは凄いことです。

 制作は5日間にわたって行われました。本作は5曲入りですが、その5曲はそれぞれの日に対応するのだそうです。録音が終わるとただちにミックスされたということで、演奏後には一切音が足されていないと宣言されています。

 その上、プレ・レコーディングも一切なし、事前にプランが立てられたこともなし。完全にその場で制作され、ダイレクトにテープに録音されています。自分たちの作品をポラロイドカメラになぞらえるTGならではの作品だと言えます。

 スタジオ録音ですから、音は極めてクリアです。その分、彼らの企みもよく分かります。使用している機材は、ベースやギターもありますが、大半は電子機材です。中では彼らオリジナルのグリッスライザーなるギター・エフェクターが目立ちます。

 サウンドは、5日間、事前打ち合わせなしとはとても思えません。解説で持田保氏が書いている通り、それぞれ「音響コンクレート」、「TG流ポルノ・ディスコ・ビート」、「偽エキゾチカ音楽」、「B級ホラー映画のサントラみたいなコラージュ」、「室内楽作品」と振り幅が大きい。

 そしてこれまた持田氏の指摘通り、この並びは最後の室内楽がサイキックTVに連なるとすると、見事に彼らのこれまでのキャリアを総括した内容になっています。TGらしくないと言えば、これほどらしくないこともありません。卒業制作っぽい。

 あらゆるタブーを打ち破ることを企図していたTGは、この頃にはカルト化していったジェネシス・P・オリッジとスリージーことピーター・クリストファーソン組と、音響派クリス・カーターとコージー組との分裂が避けられなくなっていました。禁忌に内在する霊力の逆襲です。

 サウンドはとても美しいです。「カトリック・セックス」などというTGらしい恐ろしい曲もありますけれども、全体にとても音楽的です。ミュージック・コンクレート、ドローン、サウンド・コラージュによって、TGの美意識がダイレクトに音に反映しています。

 ポラロイドでここまでの作品を作ってしまうTGは凄い。当時の音楽シーンに痙攣的な美を持ち込んだのは彼らの功績です。ヒリヒリするような緊張感でもって、5日間スタジオを占拠した彼らは、最後に本当に美しい作品を仕上げたものです。

Journey Through A Body / Throbbing Gristle (1982 Mute)