ブライアン・オーガーが自分のやりたいことを悟ったのは、バーナード・パーディーのドラムとジェイムズ・ジェマーソンのベースを聴いていた時だそうです。いずれもソウル・R&Bの黄金期を支えた名セッション・ミュージシャンです。そのグルーヴがきっかけです。

 「彼らみたいなリズム・セクションと、自分のジャズ・ハーモニーやジャズ・ソロを組合せ、そこにポジティヴな歌詞を乗せ、言うなれば、ロックンロールとジャズの架け橋になりたい」。その通りの音楽がこのアルバムで展開されています。

 オーガーが目覚めてから、オブリヴィオン・エクスプレスにたどり着く途中にトリニティーというバンドが存在するわけですが、初心は貫徹されていて、ますますロックとジャズの架け橋が太くなってきたと言えるでしょう。とんでもなく気持ちいいアルバムです。

 宣伝文句には「ドリスコール、オーガーを中心に4人の個性が火花を散らす」と書かれているのですが、ジュリー・ドリスコールは参加していません。オーガーを中心とした5人組による三作目のアルバムです。これほど堂々たる間違いは面白いです。

 ドラムはロビー・マッキントッシュ。パーディーをヒーローとして、R&Bバンドでプレイしていたそうですから、オーガーは喜んだ。ギターのジム・ミュレンは「ジャズからヘヴィ・ロックまでプレイできる幅広いプレーヤー」。ここにベースのバリー・ディーンでバンドがスタートしました。

 しかし、当初は金もなく、2枚のアルバムを出しますが、「とてもキツかった」。結成3年を経てようやく落ち着いて、「セカンド・ウィンド」が吹いたという次第です。ここからはジェフ・ベック・グループに参加し損ねたアレックス・リジャーウッドがボーカルで加入します。

 彼の参加は1曲目の「トゥルース」にいきなり刻印されます。彼が作ったこの曲は、ジェフ・ベック・グループの「シチュエイション」にそっくりだと評判です。いろいろな思いの詰まった名刺代わりのこの一発がこの作品の充実を伝えます。

 ここから全部で6曲。見事に地続きな統一感を備えた傑作です。ディーンとマッキントッシュのファンキーなグルーヴを土台に、オーガーのジャズ・テイストが溢れるオルガンとピアノ、そしてエレピ、それにミュレンのギターががっぷり四つを組んでいます。

 四人の醸し出すグルーヴの気持ちのいいことったらありません。リジャーウッドのボーカルも控えめでいいアクセントになってます。1972年当時のロック界には、ジャズ・ロックなるものもあるにはありましたが、このバンドはジャズ・テイストが強く、時代を先取りしていました。

 「ジャズ・フュージョンと呼ばれるジャンルは、その頃まだ幼年期にあ」り、「なんとかしてこのタイプの音楽を発展させたいと思っていた」オーガーにとって、「ジャズ・ロック、またはロック・ジャズの集大成とも言える」のがこの作品です。

 中でも「フリーダム・ジャズ・ダンス」は正統派ジャズ界でも人気を博しました。オーガーが思い描いた通り、ジャズとロックのフュージョンはこの後大いに発展します。その嚆矢となった重要なアルバムだと言えます。なんたってとにかく気持ちが良いアルバムなんです。

Second Wind / Brian Auger's Oblivion Express (1972 Polydor)