ウォーレン・ジヴォンは7年ごとにデビューのやり直しをやっているそうです。確かに最初のデビューが1969年、アサイラムからの再デビューが1976年、そして本作は二度めのデビューからは7年以上と計算はあいませんが、前作から5年ぶりの三度めのデビューです。

 アサイラムのリストラに合ったジヴォンはかなり落ち込んでしまいましたが、その時、「J.D.サウザーがそばにいてくれて助かったよ」と。持つべきものは友です。この時、二人で作ったのが本作収録の「トラブル・ウェイティング・トゥ・ハップン」です。

 その後しばらくたって新しいマネージャーに出会ったジヴォンはREMを紹介されます。当時、気鋭の若手と気が合ったジヴォンはセッションを重ね、デモ・テープを制作しました。それが本作品の骨格になっています。そしてヴァージン・レコードとの契約です。

 マイケル・スタイプはコーラスで1曲だけですが、残りの三人は本作に全面的に参加しています。彼らが参加していることもあり、本作品はカレッジ・チャートで人気を呼びました。ジヴォンの魅力は頭の固い昔の人よりも若者にこそ分かりやすいというのもあったのでしょう。

 私は当時カレッジという歳ではありませんでしたが、本作で初めてジヴォンに触れて感動した口です。発売当時、ほとんどこの作品ばかり聴いていました。今でも全曲をしっかり覚えています。ストレートなロックン・ロールに久々に魅了されたんです。

 彼のアルバムにとっては恒例となっている豪華なゲスト陣は今回も健在です。今回は何とニール・ヤングとボブ・ディランという二大巨頭が参加しています。特に表題曲でのギターはヤング以外の何物でもない。さらに、お馴染みJ.D.サウザーにドン・ヘンリー。

 驚きはジョージ・クリントンです。本作の最後の曲「リーヴ・マイ・モンキー・アローン」はアフリカの植民地問題を題材にした重厚なリズムの曲ですけれども、このアレンジをクリントンが担当しています。ジヴォンはエミュレーターを操るというコンピューター全開の特異な曲です。

 この曲にはPファンクからギターのブライアン・マックナイト、キーボードのアンプ・フィドラーが呼ばれ、さらにレッチリからフリーがベースで参加するという狼藉ぶり。重いリズムに腹の座ったジヴォンのボーカルが映える異色の一曲です。

 この曲が植民地問題なら、現代社会の精神衛生を歌った表題作、アル中治療体験、工場労働、詐欺師、前世の祟りにボクサーの受難、情けないラブ・ソングまでさまざまな事象を対象にストーリーを紡いでいくジヴォンの語り口はますます磨きがかかっています。

 サウンドもREMという良き理解者を得て、再生しています。三度目のデビューと本人が語る気持ちも良く分かります。心機一転まき直し。しかし不器用な人だけに、ぶきぶきのロックン・ロールは変わらない。ごつごつしたサウンドが縦横無尽に展開する。

 全米チャートでは60位くらいですが、カレッジ・チャートではトップ10に入るヒットとなり、そこそこ自信を取り戻したのではないでしょうか。地味ですけれども、土性骨の座った飾り気のないロックン・ロールはいぶし銀の輝きを放ったままです。これは本当にいいアルバムです。

参照:ミュージック・マガジン1987年10月号(中村とうよう)