「ロック界のサム・ペキンパー」、あるいは裏スプリングスティーン、ウォーレン・ジヴォンが1980年に発表した4作目のアルバムです。前作から2年、妻との離婚と新たな妻との再婚、アル中のリハビリを経験した中身の濃い2年です。

 長年の低迷を経て、1976年5月に再デビューしてから3作目、スマッシュ・ヒット「ロンドンの狼男」を含む前作がトップ10ヒットしていますから、キャリア的にはいわゆるビッグ・タイムと言える時期であったはずです。その2年間が気になりますが。

 本作はエンジニアのグレッグ・ラダニーイとの共同ですが、初めてジヴォンによるセルフ・プロデュースとなりました。激動の2年間を経て新たな気持ちで心身ともに充実した中での再出発ですから、セルフ・プロデュースは良い選択だったかもしれません。

 それにしても、相変わらずゲスト陣が豪華です。ジヴォンという人は自身の作品はなかなか爆発的な大衆の人気を得るに至りませんが、ソングライターとして活躍していた1960年代後半から、とにかくミュージシャン仲間に人気が高い人です。

 ここでもイーグルスから4人、ジャクソン・ブラウン、J.D.サウザー、デヴィッド・リンドレー、リンダ・ロンシュタットとビッグ・ネームが揃っています。こうしたアーティスばかりではなく、リック・マロッタやワディー・ワクテルなどの名うてのセッション・ミュージシャンも。

 おまけに裏が表にというわけではありませんが、ブルース・スプリングスティーンとの共作曲まで収録されています。「ジニーと殺し屋」がそれで、ジヴォンがあまりに気に入ったので、ブルースが「そんなに言うなら君がやったらどうだ」と促したんだそうです。

 本作には1曲カバー曲もあります。シングル・カットされた「或る女」で、1961年のR&Bヒット曲でヤードバーズがレパートリーにしていた曲です。座りはよいのですが、なぜにこれをシングル・カットしたのかは謎です。タイトル曲や「ゴリラはデスペラド」の方が向いてます。

 アルバムの出来はもちろん良いです。ジヴォンのアルバムが悪かろうはずがない。豪華共演陣はそれぞれが刻印を残していますし、ワイルドなジヴォンのボーカルはそんな演奏を見事にねじ伏せています。何と言うか、音楽をする幸せが伝わってきます。

 「プレイ・イット・オール・ナイト・ロング」で、一晩中流せと歌っているのは、「スウィート・ホーム・アラバマ」、死んだバンド=レイナード・スキナードの曲です。「ゴリラはデスペラド」では動物園のゴリラが自分と入れ替わります。「ジャングル・ワーク」は傭兵の歌。

 歌詞の世界は決してお花畑ではなく、かように引っ掛かる内容になっています。それにサウンドも結構ハードで重い。それでもアルバムを聴き通すと十分幸せになります。さすがはソングライターとして定評あるウォーレン・ジヴォンです。メロディー作りもとにかくうまい。

 本作品は全米20位を記録しました。前作ほどではないものの、ジヴォン作品としては売れた方です。豪華共演陣にも係わらず、派手さはなくて、むしろ地味なアルバムですが、じわじわと来る作品です。これぞ西海岸の至宝です。シカゴ生まれですが。

Bad Luck Streak In Dancing Street / Warren Zevon (1980 Asylum)