ヴォールトマイスターに任命されたジョー・トラヴァースによる「コルサーガ」シリーズも第4弾を迎えました。今回は1975年11月1日に行われた、ヴァージニア州のウィリアム&メリー大学でのライブから8曲が収録されています。

 この作品が発表されるに至った経緯はなかなか興味深いです。まず、デンマークの熱烈なザッパ・ファンであるオレ・リスガードからゲイル・ザッパにあててカセットが届きました。このカセットはザッパ自身がリスガードに提供したものだったというのです。

 彼がテープを直接ザッパ先生からもらうことになる経緯は、彼自身が書いているライナーノーツで詳らかにされています。身も蓋もなくまとめると、熱狂的なファンとなった彼は、ザッパ先生がヨーロッパに来るたびにコンサートに通い、やがて話をする機会を得ます。

 足しげく通っては、先生自身と会話を重ねるうちに信頼を得たのでしょう、ザッパ先生はリスガードに3本のテープを渡します。そのうち、今もって発表に至っていないのはこのテープだけだったということで、ゲイルに送ったというものです。

 ゲイルはこれを発表しようと、意を受けたジョーがカセット音源を探しますが見当たらず、ようやく見つけたのは聴衆の前にぶら下げた2本のマイクから録音されたと思われる、ザッパ自身の手が入る前のオリジナル・テープでした。本作はそのテープから制作されました。

 リスガードの述懐はそれにとどまらず、虫の居所の悪かったザッパ先生自身にテレビのインタビューでディスられ、その後、和解するという胸が痛む話になっていきます。1988年のデンマークでの最後のライブは彼に捧げられるというハッピーエンドではありますが。

 コアなファンの喜びと悲哀が詳らかに綴られていて胸を打ちます。スターとファンという関係は、わが身を振り返っても、なかなか難しいものだなあとしみじみします。関係ないはずですが、この作品にもそのストーリーが反映されているように思ってしまいます。

 さて、このライブのメンバーはなかなか貴重です。デトロイト・ハウス・シーンで名を馳せることになるノーマ・ジーン・ベルがアルト・サックスとボーカルで参加しています。記録にある限り彼女が参加したライブは3回だけです。実質的に初めてCD化されました。

 実質的にというのは「プレイズ・フランク・ザッパ」に彼女が参加した「ブラック・ナプキン」が収録されていたからです。そちらは単なるコーラスですから、こちらのサックスと迫力のラップ調ボーカルには敵いません。メリーさんの羊の一節のブロウもカッコいいです。

 他にも聴きどころは多いです。特に「チャンガの復讐」ではベルのサックスばかりではなく、ザッパ先生の珍しい♪リズム・ギターのソロ♪、テリー・ボジオのドラム・ソロ、アンドレ・ルイスの「ベイビー・シンセ」メロディカのソロなどなど。録音はやや広がりに欠けますが満足です。

 自己紹介で往年の名優「タイロン・パワー」を名乗ったザッパ先生、自分でも気持のよいコンサートだったのではないでしょうか。引き締まったライブです。コンパクトでパーソナルなタッチのこうした作品はとても嬉しいです。ファンの勝利、リスガードさん、天晴れ。 

Joe's Menage / Frank Zappa (2008 Vauternative)