エイドリアン・シャーウッドのON-Uサウンドそのものとも言えるニュー・エイジ・ステッパーズの三枚目のアルバムは、またまた前作とはかなり異なる作品になりました。前作から前々作へと向かうベクトルが方向を変えずにさらに突き進んだと言えます。

 ジャケットに写っているのはアリ・アップの双子のお子さん、パブロとペドロです。どちらが表でどちらが裏かは、シャーウッドの解説がないので分かりませんが、このジャケットを見ているとニュー・エイジ・ステッパーズにおけるアリ・アップの存在の大きさが感じられます。

 アリ・アップはこの作品を制作している最中にロンドンからジャマイカのキングストンに移住してしまいます。双子の誕生は移住後のことです。ということは本作の録音中はアリ・アップは妊娠していたということになります。

 アリ・アップのジャマイカ行きのきっかけの一つは、スタイル・スコットがドラムを叩いていたジャマイカきっての人気バンド、ルーツ・ラディクスでした。スコットはシャーウッドがプロデュースしたクリエイション・レベルのドラマーとしてツアーした際、アリ・アップと知り合っています。

 本作の制作にあたって、恐らくはアリ・アップのたっての希望だったのでしょう、そのルーツ・ラディクスとジャマイカのチャンネル・ワン・スタジオでレコーディングが行われました。アリ・アップはそのままキングストンに居ついてしまったということのようです。

 そのルーツ・ラディクスとアリ・アップがコラボした楽曲は2曲、「サム・ラブ」と「ストーミー・ウェザー」です。ルーツ・ラディクスはシャーウッドによると「当時ジャマイカで最も優れたリズム隊」でした。そのことはこの2曲を聴くだけでよく分かります。

 極めてオーソドックスなメイン・ストリームのレゲエ・サウンドによれよれな感じの可愛らしいアリ・アップのボーカルがよくマッチします。土性骨の座ったぶんぶんなるベースと乾いたドラムが時空を超えて鳴り響いていて、気持ちが良いことこの上ないです。

 ところが、アリ・アップがボーカルをとるのはこの2曲のみです。あと7曲収録されていますけれども、その大半でボーカルをとるのはビム・シャーマン、シャーウッドお気に入りのジャマイカ出身のルーツ・レゲエ・シンガーです。

 ルーツ・ラディクス以外の参加メンバーは、これまたON-Uサウンドのいつもの面々で、アフリカン・ヘッドチャージのボンジョ・アイ、クリエイション・レベルのエスキモー・フォックスとクルーシャル・トニー、アスワドのジョージ・オーバン、ドクター・パブロなどなどです。

 デビュー作に色濃く漂っていたポスト・パンク色は前作にはまだ残滓がありましたが、ここではほぼ一掃されており、正面からベーシックなレゲエ・サウンドに挑戦した作品と言えます。もちろんUK産ですから、100%キングストンにはなれないわけですけれども。

 アリ・アップがキングストンに行ってしまったことから、ニュー・エイジ・ステッパーズは一旦ここで幕を閉じます。わずか3年程度でしたけれども、UKレゲエ・サウンドを確立する過程を分かりやすく見せてくれたユニットでした。順番に聴くとよく分かります。

Foundation Steppers / New Age Steppers (1983 On-U)